21.
隊長、どうしたんだろ。
あのファンタジー部屋にいた時から、様子がおかしい。
心ここにあらずで、何を聞いても生返事のまま。
それに歩き方まで変だ。
右手と右足が同時に出てる。
何かの訓練だろうか?
スポーツの訓練に取り入れられたりしてるみたいだし、この歩き方。
侍歩きとも言われているが、この侍歩きをしている今の隊長は冷静ではないと思う。
でも、隊長の今の職――正確には騎士副団長。隊長というのはかつての部下からそう呼ばれているらしい――って、どんな時でも冷静になれないとまずいんじゃ。
という事で、思いっきり殺気を込めて隊長に念を送ってみた。
あ、ナリアッテが驚いて固まってしまった。
ごめんごめん。
隊長は、さすがというかすぐに反応して、すかさず剣を抜き私の首筋に当てる。
「……っ!!この、馬鹿!怪我をしたらっどうする!」
あらら、怒らせすぎた。
とりあえず謝ろうか。
「ごめんね?」
すまなさそうに、隊長の顔を見ると、固まった。
なんだか、メモリがヤバ気なパソコンの動きみたいで面白い。
じーっと見てると、「~~~~っっ!!もういい」と言って、拗ねた。
あらら。
ふと、ナリアッテを見ると、瞳から涙がはらはらと流れている。
「!!!!!な、ナリアッテ!?」
すぐに近寄って、謝罪する。
「怖い思いをさせたね。ごめんね」
ナリアッテの目から流れている大粒の涙を、自分が着ているドレスの袖口で拭ってあげた。
ハンカチはなかった。
ついでに、抱きしめる。
役得。
いや、妹がいたらこんな感じかなと、決してオヤジが入っているわけではない。
決して、ない。
オバハン言うな、そこ。
「ルイ様がっ殺されてしまうかっとっ、おもっ、思いまっした」
しゃくりあげながら言うナリアッテ。
「大丈夫だよ。例えさっきから隊長が変でも、きっと体が自動で動いてくれると思ったから。副団長様だよ?へましないって」
「……変!?」
「そうですね、例えっ変っでも、腐っても副団っ長ですものっね」
「くさっても……。と、とにかくだ、ルイ!」
ん?
「何?隊長」
「何じゃない。宮内で今の様な殺気は出すな。殺されても文句は言えんぞ」
ああ、そうだ。
ナリアッテから離れて、隊長に向き直る。
「すみません、隊長」
そして、頭を下げる。
そうだった。
ここは異世界の王宮。
気の緩みが、悲劇を生む事もあるのだ。
「そんなにしゅんとするな」
そう言って、隊長が下げていた私の頭に手を載せる。
その手が優しい。
ソロっと顔をあげてみると、目が合った。
隊長の目は綺麗な翡翠色だ。
目の醒めるような、その翡翠に目を奪われる。
何故だろう見つめる事しか出来ない。
体も動かない。
隊長の手が頭から私の頬にかけて移動するのが判る。
その長い指が頬にかかった後れ毛をそっと私の耳にかけた。
そして、私の耳たぶを柔らかに撫でる。
何度も。
慈しむ様に。掠れを帯びた低く響く隊長の声が、艶っぽく熱を帯びて私の名を呼ぶ。
「……。……ルイ」
え?
ぞくりと背中になにかが駆け抜けていく。
余計にあの翡翠色に引き込まれていく。
その翡翠の視線はゆるりと鼻へそして唇へとその熱とともに移動していく。
艶を増しながら。
視界の中がいつの間にかその翡翠色で満たされているのに気付いたとき、身体がビクリとした。
耳たぶについていたイヤリングが、シャランという音を立てた。
「あ、いや、なんでもない。なんでもないんだ。さて、目的地はあそこだ」
耳に沿っていた手を近くの扉に向けて、何かをごまかすようにして隊長が言う。
ナリアッテが意味あり気な視線を隊長に送っていたが、隊長は気付かなかった。
「お、俺は今何をしようとした!?」
と、小さくつぶやいたパニック中の隊長は、やはり侍歩きになっていた。
もう、どうにでもしてください。
キャラが自由すぎる。