206.
ナリアッテの女性宣言があってから、室内が騒めき収拾がつかない状況になってきた。
廊下からは何事かと思って駆けつけた騎士たちが中を見ようと入口付近にかたまっている。
「おい、お前らそろそろ部屋に戻れ」
セラ小隊長が部屋のなかに入り込んでいた騎士に退室を促す。
1人不穏な言葉を発していきながら部屋を出ていったが、嫁って……
私は男だ。
あれ?いや女?
ええと、男の振りをしているから男?
でも今女装中だから女でいいのか?
「悩まなくても、女性ですわ。ルイ様。ねぇ、セラ小隊長にシンヴァーク様」
にっこりと太陽のような笑顔をナリアッテは2人に向けている。
だけど、黒い何かが背後に見え隠れして見えるのは私の目の錯覚だと思いたい。
「…………」
「あ、ああ。レイは女の子だな。うん、その方がいい」
セラ小隊長が少しパニックをおこしかけてる。
ナリアッテ、あまりセラ小隊長をからかわないであげてほしい。
シンヴァーク様、それ以上悩むとはげるよ。
もう2人とも信じる方を信じればいいんじゃないかな?
大丈夫、私もそうするから。
そこへ4人しかいなくなった部屋にノックが鳴り響いた。
ナリアッテが出る。
「ウェルフ様、お待ちしておりました」
どうやら陛下付きの侍従のウェルフさんが来たらしい。
お待ちしておりました?
って、もしかして、従騎士の代理ってウェルフさん?
陛下付きなのに?
「ルイ様、シンヴァーク様。本日より数日間、この部屋付きになったウェルフ様ですわ」
「……宜しく頼みます」
シンヴァーク様がウェルフさんにぼそりとつぶやく。
「お世話おかけして申し訳ございません。どうかよろしくお願いいたします」
なんて人をこの部屋に付けたんだ。
陛下はいいのか?
少し恐縮しながらウェルフさんに挨拶をする。
「ええ、シンヴァーク殿、お任せ下さい。アイエネイル・ルイ。これは……また……ああ、失礼いたしました。先日ぶりですね 」
こちらに対する礼は相変わらず完璧だ。
鏡だ。
どうせならこの数日でその所作を盗もう。
「その節はどうもお世話になりました。おかげで助かりました」
「いえいえ、こちらもやくと……いえ、仕事でしたので」
「そう言っていただけると。それはそうと、何故ウェルフ様がこのような御役目を?」
「それはこれ」
右手を目の前にかざし始めたウェルフさん。
「兄には劣りますが、この黄金の右手が幸運を引き寄せたのですよ」
少し茶目っ気を出して宣う。
「はぁ」
「今回シンヴァーク様の従者について、話し合いでは又もや決着がつきませんでしたので、くじにて決めさせていただきましたの。話し合いでは侍従長や侍医長はては厩番のフォグフォード様その他有象無象の殿方がその件を引き受けたいという到底無理な提案がなされておりまして。収拾がつきませんでしたもので、くじで決めさせていただきました」
ナリアッテ、有象無象って。
これからはもうくじで決めればって、そうしたらウェルフさんしか勝ち目ないのか。
黄金の右手らしいし。
「それにしても、この間の事といいシンヴァーク様は人気ですね」
どうやらシンヴァーク様をめぐって侍従の座が争われた様だ。
まぁ、男に人気があってもどうかとは思うが、きっと信望があついのだろう。
そんな人の侍従をしてると言うのはそれだけの価値があるという事なのだろうな。
今後気を引き締めて業務に励まねば。
クビとか言われてはかなわない。
競争率激しいみたいだし。
ナリアッテとウェルフさんが生ぬるい視線を寄こしてきた。
「え?なんで?」
思わずセラ小隊長の方を見ると、首をかしげていた。
なので自分も首をかしげる。
シンヴァーク様は眉間にしわが一本追加されていた。
ノックが再び部屋に響く。
ナリアッテが動くよりも早くウェルフさんが対応した。
流れるような所作だった。
ナリアッテが若干悔しそうな顔をしていたのが、印象的だ。
その顔も可愛い。
残りは教育係の人という事だけど。
それにしても誰だろう?