205.
「でしたら何も問題などございませんでしょう?さ、ルイ様こちらへ」
フフ、楽しみですわ、とか聞こえてますよナリアッテさん。
完全に遊ばれてるなぁ、私。
解ってた事だけど。
仕切りの外に出ると、シンヴァーク様とセラ小隊長以外にも見知らぬ騎士が部屋の中にいた。
って、扉あけっぱなしで廊下からも覗いている人がいる。
まるで誰もいないかのように静かなんですが。
「シンヴァーク様いかがです?ル……いえレイ様素敵でしょう?」
いやいや、その極上の笑みをたたえている貴女の方がよほど素敵です。
シンヴァーク様の顔を見ると、西側の窓から差しこんでいる夕日が反射して顔が赤くみえる。
この部屋西日きついから。
何故か口を開けては閉じを何度か繰り返している。
陸に上がった魚みたいだ。
何か言うのかと思ったがそのまま固まってしまった。
大丈夫だろうか?
ここに入る前から様子がおかしいから、きっと何かまた問題でも抱えているのだろう。
もしかしてこの女官の中に振られた相手がいたりするのか?
だとしたら早く切り上げないと。
切り上げると言えば、あの窓の所の洗濯物取り込まなきゃ。
思い切り見られてるよね。
皆に。
セラ小隊長に視線を移すと思いっきり逸らされた。
うわぁ。
また男が女装したようにしか見えないんだ。
もう男顔なのは諦めようかな。
こればかりはどうしようもない。
メイクしてもダメだとかよっぽどなんだよ。
まだ希望はあるとか思っていたけどこれを機会に諦めよう。
うん。
「あ、その。綺麗だ」
セラ小隊長がつぶやいた。
無理やり絞り出した感じだ。
「ええと、無理に褒めなくてもいいですよ?解っていますから」
とほほ。
「え?あ、いや違う。そうではなく」
「あ、ナリアッテ。もうこれいいと思うんだけど、そろそろ着替えたい」
女官さんを早く帰さないとシンヴァーク様の心の傷が抉られる。
まだきっと好きなんだよ。
「あら、今日はそのままでおいで下さい。これから毎日この様な服装で出発まで過ごしていただきますので。身の回りのお世話はもちろん私がさせていただきますわね。ルイ様。あ、女性の時はルイ様と呼ばせていただきますわ」
マジですか。
このドレス姿で過ごすの?これから?
ナリアッテが近付き、ささやき声で何かを伝えようとしてきた。
耳を寄せる。
「あの、御寝所は申し訳ありません。対外的に別の部屋をご用意しようとしましたが、妨害にあい、できませんでした。城の方にある部屋のご使用も出来ないかと思われます。レイ様は一応男性という事になっていますので」
つまり、今は女の格好しているだけだから男である私はシンヴァーク様と同部屋でも問題ないだろ?ということか。
あれ?じゃあ旅の途中もそうなるのか?
まぁ、別に気にしないが。
「おい、レイ」
「ルイ様ですわ、シンヴァーク様」
「あ、ああ。ル……ルイ」
呼ばれたので顔をあげ、シンヴァーク様に向き直る。
「女……だったのか?」
ええ、まぁ。
って、ここで頷くわけにいかないではないか。
周りが一気にざわめく。
そこの女官さん喜ばない。
「そんなわけないでしょう」
どすを効かせた声で言ってみる。
何故否定しなきゃならんのだ。
何かがおかしい。
その原因を作ったのはそもそも私だが。
「……………………そうか……」
「え?あ、ああ。そうだよな。レイは男の子だもんな。そうだよな」
「セラ小隊長、ルイ様ですわ。それからここに御集りの皆様、今はルイ様は女性ですのよ。これからルイ様が女性の格好をしている時は淑女の扱いをして下さいませね。そういう事ですのでセラ小隊長シンヴァーク様、ルイ様は女性ですわ」
ナリアッテ……
頼むから事態を複雑にするのはやめてくれ。




