203.
今回の件は、私で遊びたい誰かの仕業なのだろう。
別に影武者なんて私でなくてもいいからだ。
馬車に乗っているのが身代わりかどうかなんて、一見しただけで外からは判らないのだから。
むしろ、等身大の人形でも置いておけばいいと思う。
それで十分だ。
そもそも私に女装しろとか言ってるけど、その必要性は全く感じないし。
馬車に乗って移動するだけなら意味がないだろ、それって。
却ってリスクしかない。
10代に化けろとか……
もう、ファンデは角にこびり付いた分しか無いんだよ。
薄付きメイクほぼ素っぴんでどうやって、10代になれって言うんだ。
もう詰んでるよ。
あ、そうだ、仮面がある。
仮面をかぶればって、それこそ誰でもいいじゃないか。
あぁ、鬱だ。
「あー、レイ。気持ちは解るが現実に戻ってきてくれ」
心の中で盛大に突っ込みをいれていたら、セラ小隊長から哀れみの視線と共に注意を受けた。
シンヴァーク様に一睨みされるが、今回は多目にみてほしい。
「あ、あぁ、はい。申し訳ありません、小隊長。続けて下さい」
「うむ。続ける。レイには女装してロイミオ殿下の身代わりに、シンヴァークはレイと共に行動し護衛の振りをしてもらう」
「この者が女装する意味が?」
シンヴァーク様の質問に対して目が泳いでいますよ、小隊長。
「ある。状況により本隊とは別行動になる可能性もあるからな。そのための囮だ」
囮、囮かぁ。
別行動のそれなら身代わりには確かに女性が必要かもしれないが……
複雑だ。
「今回は、レイ、お前が誘拐されることが想定される」
つまり、その時は敵を欺けと。
バレるよ。
即刻バレるよ。
欺くどころではありませんが、小隊長。
「まあ、無いとは思うが。0ではない。その時は、うまくやれ」
簡単に言いますね。
思わずセラ小隊長にジト目を送る。
小隊長が近付き、頭を撫でてきた。
あぁ、いやもうアラサーなんだけど。
「大丈夫だ、お前なら女装が似合う」
似合わなければ、困ります。
って、そうじゃない。
そっちを心配しているわけではないです、小隊長。
アラサーなんです、小隊長。
いや、アラサーを主張したいわけではない。
断じてないのだが。
はぁ。
「後は、シンヴァーク」
「はっ」
「お前なら何が起きても、対処ができると信じている。まあ、団長を蹴倒す位だからレイは大丈夫だとは思うが、慣れぬ服装だろうから援護してやれ」
げ、あの時の試合見てたのか、セラ小隊長。
「はっ」
返答をした後、団長?蹴倒す?という声がシンヴァーク様から漏れる。
「何だ、知らないのかシンヴァーク。レイが入団試験を受けた時の話でな」
うわ、小隊長いったい何を話す気ですか。
シンヴァーク様の後ろで思い切りバツ印を出した。
小隊長が苦笑しているが意図は伝わったらしい。
よかった。
こういう話はシンヴァーク様、腹が立つだろうから。
まぁこれ以上機嫌を損ねる必要もないだろう。
何とか小隊長を止められて良かった。
だけど先程からシンヴァーク様イライラしているからなぁ。
部屋帰ったら説教かな。
「あぁ、脱線したな。続きを話す。レイは出発までの10日で殿下になりきってもらう。ロイミオ殿下付きだった教育担当が暫くお前につくからそのつもりで。それからその間の従騎士業務は、城の女官か侍従に任せる事になる。シンヴァークお前はレイに助言でもしてやるといい。貴族の淑女は見慣れているだろう?この10日でレイを女にしてやれ」
ちょっと、セラ小隊長?!
女にしてやれとか。
女だっての。
「……はぁ」
シンヴァーク様が珍しく歯切れの悪い返事をしている。
すみませんねぇ、なんだか巻き込んでしまったみたいで。
お疲れですか?
私もです。
「うむ。ということだ。少し特異な任務にはなるが、お前たちなら大丈夫だろう。以上だ」
セラ小隊長の説明を聞き終わり、自室へと帰る事が許された。
シンヴァーク様の部屋の階に着くと何やら廊下が騒がしい。
特にシンヴァーク様の部屋の前が。
うわぁ、なんだか進みたくない。