202.
「ああ、レイ。伝言だ」
ああ、耳が拒否する。
なのに容赦なく、セラ小隊長の言葉は耳に入ってきた。
「ルイ、迷惑をかける。すまない。とのことだ」
うわぁ。
面倒なことに巻き込まれる予感。
琉生、琉生ねぇ。
拒否権とかないんだろうなあ、きっと……
誰からの伝言かは予測はつくけど、絶対に誰からかとかは聞かないぞ。
意地でも聞かない。
飲み会の時にエアエイ94年もの2、3本あけてやる。
覚悟するがいい。
「承りました」
とりあえず了承する。
「うむ。では、説明に入る」
何事も無かったかのように、セラ小隊長が任務説明を始めた。
「ロイミオ殿下が学園へ向かう道中、近衛と我々の混成部隊が護衛の任に就くわけだが……その間、完全に近衛隊の指揮下に入る。馬車は計4台もしくは5台、7日の道程が予定されている。が、これはかなり余裕をもたせている日程だ。というのも、少し気になる情報が入っている。これについては後程話す。でだ、今のところ警護には近衛含め41名であたる予定だが、この数に従騎士は含まれていない。最終的に随行員などその他もろもろ合わせて56名程となるだろう。で、気になる我々の配置だが……今回諸事情により、ロイミオ殿下が搭乗予定となっている馬車の位置は、当日まで知らされない。そのため、各隊員の詳細編成については、近衛隊との顔合わせの時につめることになるだろう。だがまあ、例に漏れず我々の持ち場は殿下の馬車でないことだけは確かだ。だからといって、気を抜くなよ。現段階では以上だが、なにか質問はあるか」
質疑応答が始まる。
ある程度質問が出揃ったところで、セラ小隊長が口を開く。
「さて、先程述べた情報のことだが……もう既に知ってるやつがいるかもしれんが、ロイミオ殿下が通っておいでの学園の生徒が誘拐されるという事件が今年にはいって複数件発生している。いずれも発生場所は学園外で起きている模様。被害者にメサソヤカ国出身者が多いことから、上層部では現在のメサソヤカ情勢が関連しているという見方を固めたようだ。が、我が国がかの国と同盟国である以上、とばっちりがないとも限らない。そのため、今回のお戻りはいつもとは違う形となった。だがまあどんな作戦であれ、基本的なことは訓練通りだ。行動中急な変更が発生したとしても冷静かつ臨機応変な対応を貴殿らに求む。いじょ……ああ、シンヴァーク、それからレイ、悪いがこの後残れ」
隊員の視線が集中する。
「はっ」
シンヴァーク様とほぼ同時に返事をする。
セラ小隊長がひとつ頷いた。
「ふむ。では、各自気を引きしめろ。任務までに準備を怠るな。以上、解散」
去っていく隊員たちの後ろ姿を横目でみる。
私も後に続きたい。
この後続くであろうセラ小隊長の話がなぁ。
微妙だ。
「さて、2人に残ってもらったのは、護衛任務とは別のことを行ってもらいたいからだ。あー、でだ、その……」
セラ小隊長が何かを言いあぐねている。
先程からあーとか、うーのオンパレードだ。
よほど言いにくい話なのか?
「レイ、心して聞け」
私か!
シンヴァーク様の視線が痛いのだが、代わりますか?
代わってくれますか!?
碌な内容ではなさそうなので、遠慮なくお譲りいたしますが。
ダメですか?
そうですか。
「今回お前はロイミオ殿下の身代わりになってもらう。女装しろ」
「はぁ!?」
私とシンヴァーク様の声がシンクロした。
いやいやいやいや、身代わりとか無理でしょ。
ロイミオ殿下って10代なうえに乳でか美女だよ。
この間のピアクィカの役でさえ20代で、かなり無理あったのに……
今回10代だとか。
鯖が大漁過ぎてこれは読み切れない。
無茶だ。
無理だ。
無様になるからやめてぇ。
そもそも混ざったアジアンとは言え目の色髪の色もブラウンでどうやって、全く違う配色の人物に化けるんだ。
この世界にカラコンや目の配色を変える薬剤なんてないだろうに。
髪はかつらでどうにかなるだろうけど……
いったい上は何を考えている。
「確かに色々疑問や抵抗もあるだろうが、あー、ロイミオ殿下の安全を第一に考えるべく影武者を立てる事にしたのだ」
おい、そこ何故棒読み。
いったいどこからの命令なんだ?
「えー、ダイジョウブ。道中馬車に乗ってるだけのカンタンナオシゴトデス」
目が泳いでいる上にまたしても棒読みか。
これ本当に正式な命令なんですよね?
"ルイ、迷惑をかける。すまない"
それから副団長、誰から頼まれたか知りませんがたまには断ってください。
今回はさすがに無茶すぎる。