201.
テイスティングを終わらせた後、馬の世話でさらにモチベーションをあげる。
凄く癒される。
うっかり時間を忘れそうになった。
ちなみに名前はまだ知らない。
世話終了後、部屋に戻るとシンヴァーク様に睨まれた。
思わず入る前に扉を閉めそうになった手をぐっと堪えて耐える。
「小隊長が呼んでいる。お前と来いとの事だ」
「セラ小隊長がですか?」
今朝少し出た話の事だろうか。
任務がどうとか。
それにしても、従騎士が一緒に任務説明?
従騎士がする仕事とは、主に主騎士に関わる雑用全般だ。
それが任務に携わるとは一体どういった内容の任務だろう。
どうも嫌な予感しかしないが。
私の顔をちらと見ただけでさっさと部屋を出ていくシンヴァーク様。
部屋の中には干した洗濯物がひらひらと揺れている。
今すぐ取り込みたい衝動を抑えつつ、気配を消しシンヴァーク様と一定距離をあけながら後に続いた。
しばらくすると後ろを振り返り何かを確認するシンヴァーク様。
自分も振り返るもののそこには誰もいない。
思わず首をかしげる。
以前にもこんなことがあったな、そういえば。
やはりこの人は相当気配を読むのに長けているのだろう。
私にも読めない気配が判るとは、相当訓練を積んでいるに違いない。
といっても自分の気配察知など取るに足らないもので、比較するのもおこがましいのだが。
しばらくその状態でお互い顔を見合せたまま動かなかったが、何事も無いようにシンヴァーク様は前を進む。
きっとその気配は大したことがなかったのだろう。
気にしない事にした。
一旦宿舎を出て到着した場所は、潜入捜査の説明があった部屋だ。
そこには見知らぬ騎士数名とその従騎士が集まっていた。
その中には下着騒動の従騎士先輩とその主騎士のハンクペアツァ様もいた。
ハンクペアツァ様はシンヴァーク様と同じ隊だったのか。
従騎士先輩が突っかかってきたのも、その辺りが少し関係あるのかもしれない。
任務中何も起こりませんように。
シンヴァーク様が一番後ろの席に腰をかけたのでその斜め後ろに立って控える事にした。
同席?
怖くて出来ない。
立っているのは私1人だけのようだ。
気にしない。
しばらくすると、セラ小隊長が入ってきた。
「集まったな」
一斉に起立し揃って敬礼をした。
いきなりの事なので私だけずれたが。
もちろんセラ小隊長に見られてこっそり笑われたが。
シンヴァーク様睨まないで。
そこからブリーフィングが始まった。
「先程の訓練時にも伝えたが、今回の任務は護衛だ」
瞬間部屋が騒めく。
「対象はロイミオ殿下と外務卿だ。殿下の学園へのお戻りと、ギャティーユ国での国防担当との会談がひと月早まった事で日程が重なった。また、かねてより予定にあったチュジーン国王太子殿下のご来訪も微妙に重なる。その為、近衛は人手不足に陥っている。そこで我々11番隊より人員の派遣を行うことになった。小隊の内ポエウヘルジュ分隊は外務卿の護衛についてもらう。時間が無いので、すでに近衛のエレガファーグの指揮下に組込済みだ。で、残りのお前らが殿下付きとなる」
心なしか皆、喜色が見え隠れしている。
「と言っても主な警護は近衛が中心となるのはいつも通りだ」
小隊長のこの言葉に、またかという不満の声があがる。
ふむ、近衛と11番隊の関係はシークレットサービスとFBIの関係みたいなものか。
もちろん近衛がシークレットサービスで11番隊がFBI。
これは雑用決定だな。
じゃあ私はその雑用の雑用、の雑用?
「出発は10日後だ」
場内が再び騒めく。
「いつもより余裕があるな」
「ありすぎな気もしますが」
名前の知らない騎士たちが口々に言う。
セラ小隊長がちらっとこちらを見る。
何故こちら見た。
今見た視線の先がシンヴァーク様だと思い込みたい。
「ああ、レイ。伝言だ」
いやだ聞きたくない。
絶対聞きたくない。
聞きたくないったら聞きたくない。
思わず耳を塞いだのは赦して。