196.
「材料は揃ったみたいだね」
私の説明通りの材料がこれで揃った。
後は実践あるのみ。
「ええ、これで作れるはずですが、味に関しては出来上がってからでないとわかりません。故郷にあるものと近い材料を使用するので、それほどかけ離れたものにはならないでしょうが」
まぁ、食べられてなおかつソースとして耐えうるものが出来ればいいかな。
「じゃあ早速、作ってもらっていい?」
「分りました。それでは……」
つくり方自体は簡単だ。
ただ気を付けないといけないのはいかに卵と油を乳化させるのかだが。
まず卵黄1個をボールに落とす。
塩を1つまみ程いれ、マスタードを大匙1いれてざっとかき混ぜる。
ここから本番。
「今から油をいれていきます。乳化させたいので少しずつ糸のようにたらす感じで」
「油と卵を分離させないようにすればいいんだな」
「ええ」
糸のように細く極少量を入れては混ぜ、混ざったら再び糸のようにたらして極少量を入れるを繰り返す。
この作業が胆だ。
ここで分離するようなら、やり直したほうがいい。
「大体油をそうですね、この器分1杯の分量をほんの少しずつ入れていきます」
大体150ccから200cc。
「この分量は個人によって左右されます。多めに作りたければ多めに入れ、少し濃厚にしたければ少なめに。あくまで家庭用の分量なので、大量に作る時は卵の量を増やすとか工夫が必要かもしれません」
「なるほど」
油を入れていくと、かき混ぜる感覚が固くなり腕が疲れてくる。
腕がそういう状態になったら、お酢大匙2杯をこれも少量ずつ加え混ぜていく。
入れきった時点で油がまだ残っているようだったら、再度少しずつ加えていき入れきったら完成だ。
混ぜるのに疲れるが、それほど時間はかからない。
今回は一発で成功なので5分か。
粒マスタードがあればもっと早かったかもしれないな。
とりあえず味見するか。
まぁ、日本産○ューピー印のマヨネーズの味とは程遠いが、ソースとしては悪くない。
あの蒸し料理に使うなら、この後にレモンとコショウそれに蜂蜜を加えれば美味しいだろう。
「えーと、あくまでこれは基本形です。例えば今日の蒸し料理に使用するならば、この調味料に加え蜜などの甘みを加えてみると美味しいかもしれません」
肉料理になら、このソースににんにくを加えると結構おいしい。
だけどこの国ににんにくがあるのか分らないので、このアドバイスは出来ない。
「この調味料に色々なものを加える事で幾通りものつくり方が出来るので、試してみて下さい」
「どれ、味見を」
イグプリームさんが匙でソースをすくう。
「あ、俺も!」
今まで黙って見ていたジェイが挙手する。
新しい匙を渡した。
ウィルにも一応渡しておく。
「なるほど。程よい酸味があるのだな。これなら確かに甘みを加えても、美味しいかもしれない。蜜ならあるんだが、これをどのくらい……」
イグプリームさんがぶつぶつ言いながら作業を始めた。
蜜を入れている。
味の変化を見ながら入れたほうがいいとだけ助言をしておいた。
イグプリームさんに戻ると伝えて、厨房を出た。
ここから先は料理人の仕事だ。
「レイ」
ウィルに呼ばれたのでそちらに向く。
「ん?」
「この間同期会で自主練をすると言っていたが、レイ、手合わせ願えないか?」
やはり座学だけだと不安でしょうがないんだな。
何日か剣を振らなくなると、結構動きが鈍く感じるし。
「いいよ。でも、私でいいのだろうか?」
「いや、君じゃないと意味がない」
「え?そうなの?まぁ、でも今日は無理だよ。練習用のもの何も持ってないから」
灯りとかどうしようか?
「あ、いや。いつでも構わないんだ。その、なんというかこの間の最終試験が目に焼きついて。レイがあそこまで剣を扱えるとは思わなかったからあの時はひどく驚いた。それと同時に気付いたんだ。今のままでは君に敵わないだろうって。あ、いや別に君に勝ちたいとかそういうのではないのだが。ただ、あまりにもあの時の試合が……何と言えば良いのか……きれ……いや、うつ……あ、いや凄かったので、もう一度見るか手合わせすればそこから学ぶものがあるのでは?と考えただけなんだ」
ウィルが照れている。
珍しいものを見た。
頭を触っているのは照れている時の癖みたいだ。
じっと見てたら横を向かれてしまった。
本気で照れているらしい。
「それ解る!俺も一緒にやっていい?」
ジェイが参加表明してくる。
「いや、やるなら皆でやったほうが楽しいから拒む理由がないよ」
思わず笑ってしまう。
「じゃあ、決まりだな。なぁ、でもどこでする?」
ジェイの言葉で色々な意見を出し合う。
とりあえず食堂の周囲を確認してみた。
仮訓練生用食堂の裏手に凄くいいスペースがあるので、するならそこだろうという事になった。
問題の灯りは、窓から漏れている光でなんとかなる。
いや、こればかりは実際やってみないとなんとも言えないか。
皆この暗さで動けるのだろうか。
「んじゃあ、明日めいめい武器持参って事で」
食堂内で大まかな事を決め、明日試しに振ってみるという事に決まった。
「レイ、これでどう?」
食堂に戻ると、イグプリームさんが先ほどのものと同じ試作品を運んできた。
一口食べる。
おお!
なんだろう、いい匂いのする蜜と混ぜ合わせたマヨもどきが、蒸し野菜のうまみと重なって美味しい。
このソースうまく作ったなぁ。
さすが料理人。
あっという間に完食してしまった。
「美味しいです。最高!」
「うわ!この上にかかってるのが凄く美味しい。ほんのりとした甘みが野菜とあってる」
ジェイが褒めちぎってる。
「確かにこの上にかかっているものが野菜を引き立ててるな。美味しいと思う」
ウィルもどうやら口に合ったようだ。
「やった。そう言ってもらえてよかったよ。レイ、感謝するよ。つくり方教えてくれて。助言どおり、いろんな調味料を合わせて種類を増やしてみる。よかったらまた試食してほしい」
もちろん断る理由などない。
むしろどんどん試食させろな勢いだ。
「喜んで」
「もっちろん!」
「是非に」
他の二人も賛成らしい。
どうやら、同期会の主な活動はおしゃべりの他に自主練と試食が加わったようだ。
楽しみが増えた。
嬉しい。
一応材料の分量を参考までに
アリオリソースにんにく抜き(マヨネーズもどき)
・卵黄1個
・白ワインビネガー(好みの酢)30㏄
・オリーブオイル(エクストラバージンのものはお勧めしない。なければ食物性油)150~200cc
・マスタード(粒マスタードでもいい) 大匙1
・塩 少々
・コショウ(お好みで) 少々