195.
あれから、色々話をした。
ジェイは10番隊でうまくやっているようだ。
現在ついている騎士もいい人らしいし、その人の元でのびのび働けているようでいい事だと思う。
ウィルはひたすら座学をしているらしく、体をあまり動かさないので腕が落ちていないか心配との事。
動いている分こちらのほうがまだましなのか?
いや、でもトレーニングは一切してないし、腕が落ちているのはこちらも一緒か。
「で、レイはどうなの?主騎士の人っていい人?」
ジェイが好奇心いっぱいに聞いてくる。
う、頭触りたい。
「シンヴァーク様は悪い人ではないと思うよ。すごく真面目。今いる隊にかなり誇りを持っている印象かな。今日実は何回かヘマをしたんだけど、隊に関わる事に関しては厳しかったな」
思い出して再びテーブルの下へもぐりたくなった。
「え?レイが失敗したの?」
「まぁね」
「どんな!?」
「え?ああ、今日部屋に侵入されて部屋を荒らされたんだけど、その時にシンヴァーク様の隊服の替えが汚されたんだ。それで体格の合う人に騎士服を借りたまではよかったのだけど、それがどうやらシンヴァーク様的にいけなかったみたいで、厳しい意見をいただいたよ」
「それは失敗というのか?」
ウィルが首をかしげている。
「侵入を許した時点で失敗だったと思う。一応すぐに対策はとったので、多分もうないとは思うけど」
扉に錠はつけたので、私に嫌がらせをするとしたら直接何かをするしか方法はないだろう。
これで、シンヴァーク様への影響はないはずだ。
多分。
「まぁ。シンヴァーク様は侵入のことよりも隊服の事のほうが重要だったみたいだけど。反省したよ」
思わずから笑いが出る。
「なんか嫌がらせを受けてるみたいだね、レイ、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」
「本人の言う大丈夫ほど信用出来ないがな」
ウィル……
「ん?なんかいいにおいしない?」
ジェイが厨房のほうをじっと見ている。
くそ、なるべく気を向けないようにしてたのに。
「あはは、あんなお腹の音聞かされたんじゃ、何か作らないわけにはいかないだろ?レイ、もう少し待っててくれ。今ある材料で適当に何か作ってるから」
「うわっ、それは嬉しい。イグプリームさんありがとうございます」
厨房に向かって礼をする。
「いいって事よ。ついでに試作品の試食も頼む」
「喜んで」
今ならいくらでもいけますよ。
笑顔で答える。
「イグプリームさん、俺も!俺も試食する!」
ジェイがここぞとばかりに主張する。
育ち盛りだもんね。
しばらくして、皆に運ばれてきたのは何かのスープとハーブ系の何かを使った炒め物。
これらが賄いで、新作というのがこの野菜の何かだと思う。
全部運んできてもらうのはあれなので、全員で運んだ。
「本当にあるものだけで適当に作ったから宮廷料理ってわけにはいかないけど、味は保証するよ。で、こっちの蒸し野菜が少し実験的に作ってみた分なんだけど」
スープはその蒸し野菜の残りで作ったものだろう。
味はコンソメ風?
だけどスパイスも効いていて、不思議な感じがした。
うまい温まる。
またこちらの肉料理もすごい。
鶏もも肉の食感のする肉を何かのお酒で蒸して野菜と炒めた洋風香草炒め。
これも絶品。
彩りも綺麗だ。
上からソースがけされてて、見た目も楽しかった。
ああ、なぜ手元に酒がないんだ……
さて、残りは新作だね。
こちらも見た目が見事。
色とりどりの蒸し野菜が、皿の真ん中でオブジェになってる。
緑と赤のソースが綺麗に枠を作ってて、現代アートを見てるみたいだ。
崩すのがもったいない。
よし、食べよう。
食べてみた感想。
なんだろう、ソースに少しパンチが足りない?
何が足りないんだろう。
いや、蒸すことで野菜のうまみを十分引き出せててとても美味しいのだけど、なんかもったいないんだよね。
日本食に慣れてしまったせいか、味に立体感を求めるようになってしまった。
ん?
日本、野菜と言えば……
「えーと、どうかな?」
イグプリームさんが少し不安そうだ。
ああ、感想言わねば。
ジェイが褒めちぎっている。
いや、ジェイは食べれたらなんでも褒めそうだ。
ウィルも満足したようでそのような感想を述べていた。。
「美味しいと思います。後もう一押しあればいいかと」
一応率直な意見を言っておく。
「なるほど。例えばって聞いていい?」
「うーん、口では説明しづらいのですが、あえて言うなら酸味と甘みかもしれません」
「酸味かぁ」
いい事閃いた。
ソースを作ろう。
ないなら作ればいい。
で、イグプリームさんにつくり方伝授して広めてもらおう。
「あの、故郷でよく作ってた調味料がありまして、それならば先ほどの蒸し料理と合うかもしれないのですが」
「え?」
「もし、イグプリームさんさえよければ、その調味料を作っていただけたらと思いまして。差し出がましいとは思うのですが」
「いや、それはもちろん嬉しい。だけどいいの?そういったつくり方とかは門外不出の場合が多いし、俺たち料理人の間でもそう簡単に教えたりはしないからさ。下手をすると高値で取引されることもあるんだよ?」
なるほど、著作権とか特許と似たような感じかな?
企業がたまにそれらを主張しない場合があるけど、それは世間に拡散してほしいからだ。
「私の場合は、むしろ世間に広まってほしいのでその辺りは問題ないです。むしろ広めて下さい。ああ、もちろん使えるものだと判断したらでいいので」
「ああ、そういうことか。故郷の味が恋しくなったんだね?」
ばれましたか。
照れ隠しに笑っておいた。
「じゃあ、早速で悪いんだけど、材料とか何がいるのか教えてもらえるかな?それって時間がかかる?」
「いえ、恐らくうまくいけばすぐに作れます。後、材料名が詳しくないもので味の表現でしかお伝え出来ないのですが」
「解った。じゃあ、特徴を教えてもらって揃えるよ。ここにあるものでいけるようなら今日作ってもいいかな?」
イグプリームさんの目がすごくきらきらしている。
早く作りたくて仕方がないようだ。
「もちろんです」
ジェイもウィルも興味津津だ。
いや、ただのアリオリソース作るだけなんだけど、期待されるほど手が込んでないからこれ。
にんにくいれないからオリソースか。
必要な材料は卵黄・酢出来れば果実酒の酢もしくは普通の果実酢・マスタード・塩・食物油だ。
この材料をベースにして、蜂蜜をいれて甘めのソースにしたり、にんにく摩り下ろして本物のアリオリソースにしたりしてイグプリームさんにはバリエーションを増やしてほしいと思う。
という事で、基本のものを何とか伝える。
なんと、全部厨房にある。
マスタードはないと思ってたけど、こちらにもからしもどきがありそれで代用する事にしてみた。
酢が数種類合って味見をさせてもらった。
白ワインビネガーに近いものがあったのでそれを使用。
油はあまり味の主張のしなさそうなものを選択。
よし、準備は整った。
これで作れるマヨネーズもどき。
一番期待しているのは私かもしれない。