194.
全ての業務を終え、仮訓練生用の食堂へと向かう。
同期会用にもらったスペアキーを使って中へ入ろうとしたら開いていた。
中にはすでにジェイやウィルがいた。
いい匂いがする。
イグプリームさんが何かを作っているようだ。
思わず足を向ける。
「レイだ!」
ひき戻された。
相変わらずジェイは元気いいな。
思わず微笑む。
「ジェイ、ウィル早いね」
「あ、やっとレイが元に戻ってる」
「ん?」
どうやらここ数日の絶不調を気にしてくれていたようだ。
確かに周りから見たら変だったろうな、とは思う。
実際変だったし。
「ごめん。心配かけた」
「うん、それはいいんだけどさ。詳しくは聞かねぇけど、もしヴォイドと喧嘩でもしたんなら早く仲直りはしてほしいかなとは思う」
「あ、いや。喧嘩じゃないんだ」
ああ、まだ何も話してないんだった。
ずっと気になってたんだろな。
「そうなのか?てっきり2人が何か喧嘩でもしたのではないかと思っていたのだが」
ウィルが驚いている。
詳しく話すわけにはいけないけど、ある程度は説明しなきゃな。
「その、詳しい事情は言えないんだけど、ヴォイドが、実は異動になったんだ」
「えぇ!?」
「そうなのか!?」
2人が盛大に驚いている。
首肯する。
「前から気になっていたんだが、ヴォイドはレイの護衛だったのではないか?いや、詮索するつもりはないから答えなくてもいいが」
ウィルがもどかしそうな表情をしている。
多少の情報なら構わないか。
口止めされているわけでもないから。
オフレコって事で。
「えーと、独り言を今から言うから気にしないで」
突然の発言に二人は面食らっている。
構わず続ける。
「私がこの国に来てから、ヴォイドが護衛だったのに、急に任を解かれてしまった。今回私が従騎士になったせいかもしれない。従騎士になっても継続予定だったのだが、な」
急に命令が降りちたからなぁ。
まさか自分から解任を言いわたすとは思わなかったけど。
「やはりか。ヴォイドの行動を見ていると、レイと離れずだったからな。友人というには少し行き過ぎていると感じていたんだ。だが、護衛だと考えるとその行動もしっくりいく。だからヴォイドはレイの護衛ではないかと、ずっと考えていたんだ」
「え?どういう事?ヴォイドって護衛なの!?」
ジェイが目を見開いている。
なんか零れ落ちそうだな。
「だから、独り言だって」
思わず苦笑する。
「ヴォイドと一緒にいたのが事のほか楽しかったから、離れる事になって少し落ち込んだ。今までの絶不調はそれが原因かも」
「そうか。そういう事情があったんだ。てっきり喧嘩でもしたのかと思った」
ジェイが独り言の意味を解ってくれたか多少不安だが、この件に関して誰彼話す機会もないだろうと予測。
影響はでないはずだ。
ジェイはヴォイドに懐いていたから、もう会えなくなるのかと思って心配していたのだろう。
表情が少しだけホッとしていた。
それを見て、誤解が解けてよかったと安心した。
ウィルがまだふに落ちていなさそうだが、ここは我慢してもらう。
これ以上は話してはいけない気がしたから。
「んじゃ、レイも元に戻ったことだし、仕切り直しって事でいい?」
ジェイが元気よく言う。
「異存ない」
「私も」
同意したところで、私のお腹が盛大になった。
向こうの厨房で調理していたイグプリームさんの笑い声がここまで響いた。
そこの2人も笑うな。
テーブルの下に隠れておいた。