190.
「イウフジャミーク様、罰決めました」
「な、なんだ」
「従騎士先輩、騎士隊服の掛け金の外し方と留め方を教えてください。あと、下着と服を返してください」
先輩に向きなおって宣言する。
「どういう罰だよそれ」
「え?そりゃあ、大嫌いな後輩に、懇切丁寧隊服の掛け金の外し方と留め方を理解するまで教えなければならない、という罰です」
説明するとイウフジャミークさんに呆れられた。
「では早速で悪いのですが、これをどうやって外すのか?から始めてください」
イウフジャミークさんの胸倉を掴み、ボタンを指差す。
先輩に盛大に溜息をつかれたが、一応教えてくれるらしい。
よかった!
ボタンのギミックはそれほど複雑ではないらしい。
コツがいるのだと。
いじっていたら、かえるのつぶれたような声がした。
顔を上げると苦しそうなイウフジャミークさんの顔が。
「これは何か?俺への罰か?お前を助けた俺が罰を受けているのか?」
悲壮感を漂わせるイウフジャミークさん。
すんません。
もう少しで解りそうな気がするのです。
「違う貸せ!こうだ」
又かえるのようなうめき声が。
「あ、今のもう一度」
「だから、ここを少し押さえながら右に回してこうして左に」
おお?
こうかな?
「あ、いけました」
調子にのって上から全部はずした。
それにしても、冬なのに肌着着なくて寒くないのだろうか。
「腹筋すごい」
イウフジャミークさんの腹筋を見て思わずつぶやく。
自分の腹が最近ヤバイです。
訓練しなくなっただけでここまで影響出るとか、泣きそうだ。
自分のをつまむ。
溜息が出た。
「……それよりもういいか?留めるぞ」
イウフジャミークさんが痺れをきらして留めにかかる。
「あ、待って。先輩留め方は?」
「ああ。こうだ」
これが又難しく、はずす時の逆をするのかと思いきやまったく違う手順を踏んでいく。
何度か見て閃いたので、イウフジャミークさんの後ろから前に手を出し留めてみるとやりやすかった。
でもこれを前からするとどうも出来ない。
何で?
2人に盛大に溜息をつかれてしまった。
「本当に役立たずだな、お前」
先輩に罵られる。
「こうだと言ったら何度解るんだよ」
そう言いながら先輩が残りのボタンを留め始める。
ひざ立ちになり、よく見える位置に移動した。
ボタンと先輩の手の動きをよく見る。
「おい、何の騒ぎだ」
突然扉が開いた。
どうやらこの部屋の主が戻ってきたようだ。
「いったいこれは……」
「あ、いや、ハンクペアツァ殿、これは……」
イウフジャミークさんに説明は任せようっと。
立ち上がる。
「おい、お前が説明しろ」
思わず片眉が上がる。
「私ですか?かしこまりました」
ハンクペアツァさんに顔を向ける。
「ハンクペアツァ様、はじめまして。私シンヴァーク様が従騎士のレイ=タダノと申します。僭越ながら……」
「要点をいえ」
ちっ、口上陳べている間に、いいわけ考えようと思ったのに。
「はっ」
敬礼をする。
「私が隊服の掛け金の留め方について先輩に相談していたところを、イウフジャミーク様が偶然通りかかりまして、詳細を説明しましたところ、先輩の部屋で実演して見せてくれることになったのです。おかげさまでようやく理解する事ができました。お礼申し上げます」
胸に手を当ててイウフジャミークさんにお辞儀をする。
わざとらしかったか?
「……まぁ、概ねそういうことだ。すまないな、邪魔して」
「……いや」
「では行こうか」
イウフジャミークさんに促されたので、別れの挨拶だけしていく事にした。
「はい。あ、先輩。私の私物預かってくださってありがとうございました。そろそろ大丈夫ですので、返してくださいますか?」
「あ、ああ」
やはり持ってたか。
捨てられてなくて助かった。
私物が無事戻ってきたので、これで夜ゆっくり休める。
「それと、そこの26年のエウェジークと隊服とってくださいますか?」
「ん?なんで26年?まだ早いだろう」
「今日の夕食に合うって料理人の方が教えてくださいまして」
「本当か!?」
頷く。
先輩が手渡してくれたので礼を言う。
「後、先輩、あの棚の短剣なんですが、一番手前の右から2番目のはどちらで買われました?」
「ウェユアだ」
ウェユアか。
覚えておこう。
すごく使いやすそうだ。
「そうですか。ありがとうございます。それでは失礼いたします」
そのまま部屋を出ると、イウフジャミークさんがおもむろに言葉を発した。
「お前、俺に全部言わせただろう」
ん?
何の事?