189.
「これは、お前のものではなく、こいつのものなんじゃないのか?」
先輩がたじたじとなる。
「それは、自分のものです」
「言い切るな。ならば、お前はあそこで買ったと言っていたが、紹介者は誰だ?」
「言えません」
「はぁ。あのな、俺が何でタユタヨのものを欲しいか教えてやろう。お前、この短剣持ってみろ」
イウフジャミークさんが私の持っていたナイフを先輩に渡す。
「構えろ」
言われるままナイフを突き出すようにして、先輩は構えた。
「持ってみた感じはどうだ」
イウフジャミークさんが感想を求める。
「持ちやすいと思います」
「本当にそう思うか?お前にとったら握りの部分に若干の違和感があるんじゃないか?」
ナイフを持った手を握ったり開いたりを繰り返し、先輩は感触を確かめているようだ。
「はい、少し」
少し考えるように先輩が返答する。
私の場合は吸い付く感じがしたので、持った時には何の違和感もなかった。
「どの辺りに違和感を感じる?」
「握りの部分がやや細いので、指全体が」
イウフジャミークさんがこちらを見てにやりと笑う。
え?
「わかった。お前ら手を出せ」
言われた通りに手を差し出した。
どうやら大きさを比べたいらしい。
「やはりな」
イウフジャミークさんがしたり顔で言う。
「お前のほうが握った感じ、違和感なかったんじゃないか?」
私に言ってきたので、頷きで返した。
「だろうな。お前のほうが手が小さいからな。握りの部分がこれぐらいの太さなら、こっちの手の大きさのほうが握りやすいだろう」
私の手首を持って上へ持上げながら言う。
微妙にこの角度痛い。
「普通店で買う時は、自分の手にあったものを買うだろ?なのに、こいつの言う事を信じれば」
ナイフの切っ先で先輩を示す。
「持った時に違和感のあるのを承知で、わざわざこの短剣を買った事になる」
ナイフの切っ先を先輩に向けたままイウフジャミークさんがこちらに向く。
先輩の目が少しゆれている。
とことん嘘のつけない人だ。
「タユタヨのような職人のいるところなら、なおさら持ち手の感触にこだわる。あそこはとことん調節してくれるらしいし。俺はそういうこだわりを感じるものが好きでなぁ」
ほれと言って、短剣を投げ渡された。
抜き身で投げるな。
危ないだろ。
「お前のだろ」
「はい」
持っていた鞘にナイフを収める。
カチッという音がした。
「もう自分の非は認めろよ」
イウフジャミークさんが先輩に向かって言う。
先輩はうな垂れた。
「あの短剣は彼のものです」
ぼそぼそと言ったため聞きとりにくかったが、確かにそう言った。
「だ、そうだ。どうする?」
「え?どうするって何がですか?」
「いや、何か罰は与えないのか?」
「そんなことして誰が得するんです?あ、下着と服返してください」
「お前、もしかして、短剣よりそっちのほうが大切だったりする?」
「ええ、1枚もありませんから。いいですか?1枚もないと言うことは明日以降下着なしで過ごすことになるんですよ?今日汚れたものを明日もはくなどという苦行を、新しいものを手に入れるまで続けるなど気が狂います。かといって明日何もはかないなどと出来るわけないではないですか。短剣はなくても過ごせますが、下着は無理です。ましてや他人の物を借りるとかは絶対無理。それともイウフジャミーク様は御自分の下着を他人にお貸しできるのですか?従騎士先輩は!?」
詰め寄ると2人は首をしきりに横に振った。
分ればよろしい。
ん?
あ、そだボタン。
「イウフジャミーク様じっとしてて下さい」
胸倉を掴み胸元のボタンをじっとみつめる。
よし。
「おい!?」