188.
中にはいると、シンヴァーク様の部屋と若干間取りが異なっていた。
調度品は少し派手なものが多い。
部屋の主の趣味なのだろうか?
「おい。これで取ってないと判っただろう?」
えーと、まだ何もみていませんが。
「先輩の部屋は?」
「好きに見るといい。下着などないと判るはずだ」
お言葉に甘えて見せてもらう。
中は意外ときっちりしている。
服とかも整理整頓がされていて、分類別けも出来ているようだ。
小物類の棚も乱雑ではなくまとまっている。
あまり余計な物を置かないタイプのようで、全体的にすっきりしている。
刃物がすきなのか、そこだけは拘りを感じた。
コレクションが飾られていたからだ。
なかなか装飾とか凝った物を選んで飾っているらしい。
いや、実用的な物と分類別けされている。
使いやすそうだな、あれ。
グリップ部分が握りやすいように工夫されている。
あれならしっかり持てるだろう。
刃渡りもちょうどいいし。
あれ欲しいな。
高いんだろうか。
「下着が隠されているようには見えんな」
騎士のイウフジャミークさんの声に現実に戻る。
「ええ、そうですね、残念ながら」
「これで誤解は解けましたか?」
こちらをわざわざ見ながら誇らしげに言う先輩。
うーむ。
PCに映ってたのは、双子で無ければ彼だったんだけど。
これは証拠として提出できないし。
下着は諦めるしかないか。
「大方こいつが、嘘でもついて騒いでいただけですよ。所詮出来そこないの役立たずですからね」
なっ。
嘘付とは心外な。
「部屋の私物ごとごっそり無くなったのは、嘘ではないのですが……」
「役立たずは否定しないのか。まぁ、何も出てこないのであれば、ここにいても仕方がないな」
はぁ、下着がないのはショックだ。
どうしようかな。
「行くぞ」
促される。
「あ、はい。あ、そうだ先輩。そこの棚の武器って、いいのがいっぱいありますけど普段どちらで買われてます?」
一応店だけでも聞いておこう。
時間があれば見に行く。
少し楽しみが出来た。
「俺はウェユアとエイジェでしか買わない。それがどうした」
物凄く不快そうに聞き返された。
「へぇ、好きなだけあっていい店選んでるな」
騎士のイウフジャミークさんに褒められて、先輩従騎士が嬉しそうな顔になる。
表情が豊かだ。
「今後の参考に聞きたいなと思いまして。ウェユアとエイジェかあ。あれ?」
「どうした?」
「いえ、1つだけタユタヨ工房のものがありますよね。あそこの品使いやすいから好きなんです。うわ、見たい。先輩、見せてもらえませんか?」
駄目元で頼んでみる。
「え?おまえタユタヨを知っているのか?ていうか、よく見分けられたな。意外と目利き?」
イウフジャミークさんに驚かれる。
いや、手にしたのは正タユタヨしかないから。
「あそこ紹介がないと入れないだろう?1度行ったが断られたんだ。頼む紹介してくれ。あそこの職人の作ったやつがどうしても欲しいんだ」
「え?構いませんが。覚えてくれてるかな?1回しか行ってないし。それにそこで買った武器も今はありません」
「何でないんだよ!?あれの価値が判らないとか言わないよな?それに、騎士が武器なくすとかないだろう」
「監督不行き届けで、すみません」
「まったくだ。それより、タユタヨの武器って俺も見たい。見せてくれないか?」
先輩が明らかに狼狽している。
「ん?どうした?」
「あ、いえ。あれは駄目です」
「なぜだ?」
「その、情けない話、買ったのはいいのですが、鞘から抜けないんです」
「?当たり前だろう?……しかし、ふ……あぁ、そういうことか」
「ええ、そういう事なんです」
先輩従騎士が申し訳なさそうに言う。
イウフジャミークさんがこちらを見た。
ん?
「鞘だけでも見たいから、見せてくれないか?頼むよ」
騎士にここまで言われたら断れないのか、先輩がしぶしぶナイフを渡した。
相当好きなのかいろいろな角度で見ている。
心なしか目も輝いている。
ひとしきり見て満足したのか、私に渡してきた。
うん、やはり手になじむ。
握った瞬間、吸い付く感じがする。
この感触がいい。
覚えてくれてるかな。
無意識にナイフをいじり倒していたのか、鞘を外してしまった。
あぁ、やっぱ痛んでるなぁ。
訓練の時にこれで料理して手入れは簡単に済ませたんだっけ。
見張りの時に磨ごうと思っておいておいたら、洞窟に落ちたんだっけ。
指の腹で切れ味を確かめる。
「なっ」
うーん。
やっぱり、切れ味落ちてる。
「先輩、これ早く磨いだほうがいいです。このままだとせっかくの切れ味が……」
ん?
空気がおかしい。
「タユタヨの店って職人気質が多いと聞いている。気に入った相手しか売らない店だとも。でだ、その売られている武器も鞘から抜く方法は購入者のみにしか教えない。しかも武器ごとに仕掛けを変えているらしい。直接買った本人でしか解らない抜き方をなんでこいつが知ってるんだろな」
そうだったのか。
知らなかった。
鞘から抜けないと言っていたから、相当錆びてるのかと。
確認したらすぐに抜けたしなぜ抜けなかったのか疑問に思ったけど、そういうことだったのか。
抜き方は確かに教わったな。
「そ、それは」
「これは、お前のものではなく、こいつのものなんじゃないのか?」