183.
副団長の席の前に回りこみ、ボタンに手をかける。
本当にこの仕組みもっとシンプルにならんのか?
「あ、おい。なにを」
「いいから、じっとして」
「は!?」
ああ、駄目だ。
こうすると引っかかる。
右からは、硬いし。
「お、お前、今自分が何をしているのか判っているのか!?」
うるさい。
「しー、黙って」
人差し指を副団長の口に当てる。
「なっ」
左へ回す?
いや、違うな。
やはり右か?
右なのか?
ちょ、暴れるな。
ひざの上に座り、足で両膝を締める。
よし、これで動かないはずだ。
「ルイ!お前っ……」
それから、ああ、こういう風になっているから一度戻すのか。
くそっ。
これ考案した奴恨むぞ。
どうなってるんだ。
そもそもボタンに、こんなに手の込んだギミックがいるのか?
これなら知識がある分、爆弾解体でもやってるほうが、ってそうでもないな。
同じくらいだ。
「ル……ああ、くそっ……」
うーむ、何でここで引っかかるんだ。
こんなとこでひっかかったら外せない。
くそ、まるでイタリアのトイレの鍵。
あ、鍵。
鍵の事も聞かなきゃ。
って、うぉ!
急に体が持上げられ、そのまま隣の部屋のベッドの上に乱暴に投げ下ろされた。
「いいか、ルイ。いい加減にしろよ!?」
副団長がそのまま覆いかぶさるようにしてベッドに両腕をついた。
何事かと顔を見ると、どこかイラついた翡翠の眼とぶつかる。
怒らせたらしい。
「こんな事をされて理性を保てる男がいると思うのか!?」
しまった。
説明してなかった。
「頼むから、頼むから自分を女だと自覚してくれ。まさか、こんな事を他の奴にやってないだろうな!?」
う。
やったかもしんない。
「その顔。どうなんだ。言え」
リプァーグにやったわ。
思わず目をそらす。
「言え」
「えー、やむにやまれぬ事情がありまして」
目をそらしながらいいわけを考える。
「この国に来てから約一名に」
「お前は……」
恐る恐る眼を見ると、何かを堪えるように眼を瞑っている。
うわ、相当怒ってるわ。
「いやあ、あの時は仕方がなかったんだ。早く服を脱がないと、不味い事になってたし?」
「お前も脱いだのか」
「は?」
思わぬ質問に咄嗟に目を見ると、怒りとは違う何かの感情がのっていた。
なんだ?
「お前もぬい……」
「ロー、いるか?ああ、こんなとこ……え?」
「だのか?」
「ん?」
誰かと思えば、団長だった。
「すまない。取り込み中だったか」
「は!?あ?いや、これは、ちがっ」
「本当にすまん。ローの趣味はとやかく言わないし他言はしない。又出なおす」
こちらをじろじろと見た後、団長が回れ右をする。
何か勘違いをされたようだ。
ああ、この体勢じゃあ、誤解もするか。
「って、そうじゃない。ロー、急ぎの用なんだ。そこの従騎士悪いが外に出ろ。終わるまでしばし待て」
戻ってきた。
「了解です」
身動きが取れないのでそのままの体勢で返事をした。
「いや、これは誤解です」
「何が誤解なんだ?後、やるなら出来るだけ仕事が終わってからにしてくれ。うかつに部屋に入れん」
「だから違うと言っています」
うわ、副団長のイライラが最高潮だ。
「何が?どう見ても、そういう関係だと思ったが。大丈夫だ。人に言ったりはしない」
「だから、それが誤解だと言っているんだ。お前はガキの時から人の話を聞かない。その性格どうにかしてくれ。言っておくが俺は女が好きだ。男に興味はない」
「懐かしい口調に戻ったな?ロー」
どことなく団長嬉しそう。
きっと上司部下の関係になった時にでも、副団長が口調を改めたのだろう。
「はぐらかすな。ボンクラ殿下」
「殿下はやめろ」
あ、ボンクラはいいんだ。
「そこの従騎士、聞こえている」
声が出てたか。
「あー、その誤解と言うのは本当です。私がつまづいたせいでこんな体勢に」
副団長がそろそろかわいそうになってきたので、助け舟を出す。
誤解を解きたければ、この体勢解けばいいのにとか思うが。
「ふーん。まぁ、いい。そういう事にしておこうか」
絶対信じてない。
何もないのは本当なのにな。
「何がしておこうかだ」
「その格好で言われてもな。ついでに俺も女が好きだ。悪いが俺を巻き込むなよ」
私に念押しをしているようだ。
「大丈夫です、好みではありませんから」
私の言葉に若干傷ついた顔をする団長。
意味不明だ。
「アレイの奴、始めて振られたんじゃないか?」
「え?そうなの?」
「ああ、俺が知る限り」
「てか、今のは振るも振らないも前提条件おかしかったから、回数に入らないんじゃ」
あ、団長の表情回復した。
リセットしたらしい。
「というか、いつまでいるつもりだ。レイだったか」
名前覚えられてる。
目をつけられたな、これは。
「あ、はい。すぐ出ます。あの、副団長」
「すまん。すぐに退く。レイ最後に言っておく。気を抜くな」
「了解です。では、隊服お借りします」
即答した。
「はぁ、解ってるのか?もういい、適当に持っていけ」
隊服4着を借りて、執務室を出ようと扉に近づく。
隣の部屋での会話が聞こえたが知らない振りして出て行った。
「そうか、ローはあいつのあの時の姿にやられたんだな。確かにあそこまで見事な女装を見せられてはな」
「まだ言うか」
「否定はしないんだな」
男だと信じて疑わないあんたのほうが変だよ。
しまった。
結局ボタンの解除方法わからないままだ。
あと鍵の事聞きそびれた。