179.
今から取りに行くにしても、ここに朝食を置くのは非常に不安だ。
何かある、絶対。
あ、そう言えばお茶をセットする台の中に、鹿革っぽい布がおいてあった。
あれで磨けば銀食器光るんじゃ。
いやいや、このカテラリーが清潔だとは限らない。
やはり厨房か。
とりあえず朝食類を部屋に置きに行き、一旦引き返すほうがいいだろう。
「失礼します」
「入れ」
「申し訳ありません。朝食の準備が遅れております。そのまましばらくお待ちください。朝のお茶を先にお入れいたしますので」
部屋に戻り、説明をして先に紅茶の用意をする。
紅茶の入れ方は地球のと同じやり方でいいんだっけ?
ナリアッテはどうしていた?
ああ、どうか紅茶に異様に執着する人ではありませんように。
淹れるとすれば、目覚まし代わりに濃い目のストレートか。
アッサムみたいなのがあればいいんだが、この国のお茶の種類はよく判らん。
もったいないが、茶葉数種類淹れて味見させてもらい、そこから一番アッサムっぽいのを探す。
最終目標は、フォートナムメイソンのロイヤルブレンドだ。
ブレンドは味が判ってからしか出来ないから、今日は一種類ずつ茶葉を確認。
その中から一番アッサムに近いものをお出ししよう。
これで時間稼ぎが出来ればいいが。
「お茶です。どうぞ。なにぶん慣れないものですのでお好みに合わないかと思いますが、その時はおっしゃってください。では、御前失礼します」
適当に言って、逃げてきた。
おっしゃってくださいと言いながら去るとか、ないわ。
ない。
そんなことより、今はカテラリーだ。
念のために持ってきた布にくるまれたカテラリーと鹿革っぽい布を片手に、厨房へと走る。
見つかったらかなり不味い。
ええい、階段を降りるのが非常にもどかしい。
窓から降りれないだろうか?
外をのぞく。
誰もいない。
気配も感じない。
いやいや、ただでさえ目をつけられているのだ。
ここは、堪えよう。
階段の手すりを飛び越え2階そして1階へと飛び降りていく。
1階部分で騎士に見つかった。
即座に体制を整え、敬礼をし謝罪を入れる。
「申し訳ありません!急いでますので失礼します!」
「……」
何も言われなかった。
セーフ。
厨房へと急ぐ。
「失礼します!」
厨房につくと大声で叫んだ。
そうしないと朝の厨房は誰も聞いてくれないのだ。
厨房は現在交戦中。
「ん、あれ?お前この間まで城にいた奴。こっちに用か?」
城でよく見かけた人だ。
よかったよく見る人がいて。
「ええ、本日よりこちらでお世話になる事になりまして」
「その制服はいつもと違うな。従騎士になったのか?」
「はい」
「そうか。それで?」
事情を話し、カテラリーを見せる。
「これはひどいな。俺たちに喧嘩売っているとしか思えない。食器は俺たちが丹精こめて……あ、いやすまない。これは俺が預かる。新しいのをもって来てやるから少し待ってな」
「申し訳ありません。お願いします」
ほどなくして新しいのを持ってきてもらった。
深く礼をとり、シンヴァーク様の部屋へと急ぐ。
階段付近でまたあの騎士を見かけた。
敬礼をし通り過ぎる。
ともかく急ぐので出来るだけ階段を跳ばし駆け上がる。
10分かかったか?
いや、判らない。
まぁいい、とにかく入ろう。
息を整える。
「失礼します」
「入れ」
心なしかどうでもよさげな声だ。
「大変お待たせいたしました。今からご用意をいたします」
テーブルを広げ、クロスのしわを伸ばす。
よしまだ暖かい、助かった。
もらいたてのカテラリーを、いつもナリアッテが置くようにして並べ、料理も温かいのを手前に置いていく。
全て置き終わり、再度お茶を入れ直す。
さっきのアッサム風茶葉を使って今度は飲みやすいように、もらっておいた暖かいミルクをいれる。
朝食は結構がっつり系だ。
朝から重いわ。
あ、何も聞かずに勝手にミルクを入れたがよかったんだろうか。
好みに合わなかったら言って来るだろう。
とりあえず出す。
これで全部出たな?
よし。
「お食事終わりましたら又お呼びください。御前失礼いたします」
敬礼をして、従騎士室へと引っ込む。
うわぁ。
どうしよう、シンヴァーク様とどう接していいか判らん。
OJT中の意識は飛んでたからここ数日一切記憶ないし、顔合わす回数も少なかったから会話は成立してないし。
初日から失敗した感、半端ないわ。
まぁ、別に馴れ合う必要はないけどね。
あまりにも距離が近いから、ストレスがたまりそうだ。
少し落ち着いたところで一旦外に出る。
時間ある間にあの衣装でも整理しておこう。