171.
部屋を勢いよく出て行くと、案の定ヴォイドとジェイ2人がいた。
帰ってないだろうなぁとは思っていたけど。
「あ、いたんだ。待たせてごめん」
「それはいいんだけどさ、話って何だったんだ?」
まぁ、ずっとユイクル教官は耳元で話してたからなぁ、ドアに耳を当てても中の音は拾えなかっただろう。
っと、ここにいてはまずい。
「えーと、2人とも!」
「はい?」
「え?」
「走れ!!」
「あ、はい。わかりました」
「えぇ!?」
途中いろんな人に注意をされながらも、猛ダッシュで宿舎に帰った。
ユイクル教官は追いかけてこなかった。
ふぅ。
「あははは。なんか久しぶりに何も考えずに走ったわ」
「ところで、今更こんな事を聞くのもなんだけど、怪我、大丈夫か?」
ジェイが心配げに聞いてくる。
「あ……うん。多分」
忘れてた。
傷はもう塞がっている。
入浴と歩き回る許可は出てるから、自由に動き回れるのももうすぐだろう。
それに、体捻ったり、腕振り回したり、重いものを持ったりはしていないから傷も開かなかったし、経験上これくらいの運動量なら安全圏内だ。
「ならいいけどさぁ。この間、行軍の時の話を聞いてて思ったんだけど、レイって結構無茶するだろ?もうちょっと、自分の体労われよ。やっぱり心配になるし」
うわぁ。
よく考えたら、地球にいたころって私に無茶をしろと命令するやつしかいなかった。
無茶するなって言われるのってものすごく久しぶりな気がする。
くすぐったい。
「わかった。気をつける。ありがとう」
「おう」
「あの……」
「ん?ヴォイド、どうしたの?」
「先ほど教官には何もされませんでしたか?」
おいおい、何をされると思ったんだ。
何もないから。
「されてはないけど、逆にこっちがしたかも」
「え?何をしたんですか?」
「怒らせた」
「おいー、何をして怒らせたんだよ……」
ジェイがあきれたように聞いてくる。
そうだよねぇ。
選考に関わっている人物怒らすのはまずいよねぇ。
だからといって、あの絞め技から抜け出すのは力ずくでは無理だったし。
策があれしか思い浮かばなかったというか。
戦術で勝てても戦略で負けたような。
敗北感がひしひしとしている。
「ああー、どうしよう。落ちたかも。必要だったとはいえ、試験官に……」
「らしくねぇなー」
「うーん。敗北感が半端ない。でも、ま、そうだな、悩んでも結果はどうせ2日後にしかわからないし」
じゃあやるべき事は、と。
「よし、なんか食べよう」
久しぶりの食堂で食事を取りつつ、ジェイの質問攻めをかわしつつその日は終わった。
次の日にはウィルも戻ってきていた。
「そうか、では結果は明日なんだな?」
「そうなんだ。明日まで気が休まらないよ。ウィルは士官候補に進むんだっけ?」
「ああ、寂しくなるな」
ウィルには珍しい、沈んだ声だ。
「そうだね。なんだかんだ言って結構、仮訓練楽しかったし。いい思い出になったよ」
「そうだな。初めは、その、すまない事をした。きちんと謝っていなかったと思って」
初対面の時の事を行っているのだろう。
すっかり忘れてた。
「いいよいいよ。あの時ヴォイドに何をされたのか、すごく気になるけど」
「うっ、それは……」
かなり思い出したくないようだ。
「あぁ、ごめん。聞かない事にする」
「そうしてくれるとありがたい」
「なぁ、湿っぽい話はやめにしようぜ。城の中にいれば会えるだろ?」
ジェイが努めて明るく言う。
まぁ、それもそうだな。
お互い、近くにいるんだし会う機会もあるだろう。
「むしろ横のつながりと言うものは、存外必要かもしれないな」
ウィルが言う。
「なら、定期的に会う?」
ジェイが提案してきた。
「出来るならそうしたい」
ウィルが賛成する。
もちろん私も否やはない。
「そうだな」
ヴォイドも頷く。
あ、こういうのってなんかいいかも。
同期会(仮)っていうの?