169.
そのまま部屋を出ると、廊下でヴォイドとジェイが待っていた。
「どうだった?」
ジェイが聞いてくる。
「あ、いや、それが、うーん、まだ決定していないようなんだ」
「何だよ、それ!?そんなのあり?」
「本当ですか?」
二人に詰め寄られる。
頷きで答える。
「どうやら色々意見が割れているようで、2日後にまた会議を開くと担当教官が。そこで決定すると」
「何で意見が割れる事があるんだよ。あの試合見たら誰でも納得するだろ!?」
「あ、いや、あれは色々と中途半端だったでしょうが」
なんかぐだぐだだったし。
少し、気を抜いてたのは否定しない。
「まぁ、いつもの感じではなかったですが、落とすほどひどくもない。むしろあれぐらい隙があったほうが私は好みですが……」
ヴォイド何の好みだよ。
「ああ、確かに、あれくらいの隙って、なんか色っ」
「おい、隙があったらまずいだろ」
ユイクル教官、いつのまに。
それから一体何の話に変わったんだ?
「騒がしいと思って出てみたら」
ユイクル教官と目があった。
小さく礼を取る。
「ん?レイ=タダノ=オカ」
「あ、レイで結構です」
「そうかレイ、時間があるなら少し聞きたい事がある。いいか?」
「はい、何でしょう」
ユイクル教官がジェイとヴォイドをチラッと見る。
「いや、中で話そう」
中で?
なぜ?
「ここで話せないことなのですか?」
ヴォイドがユイクル教官に尋ねる。
尋ねているのか?
これ。
「ああ、お前らはもう宿舎に帰れ、ここには用は無いはずだ。教官命令だ、お前たち二人は立ち去れ」
ヴォイドの周囲の空気が冷え込む。
「従う理由がありませんね」
「理由など話す必要も無い。命令だと言ったはずだが」
「あなたが私に命」
まずい。
何か判らないけどこれ以上ヴォイドに話をさせてはまずい気がする。
「ヴォイド!落ち着いて」
「私は落ち着いています」
ヴォイドが不貞腐れている。
意外とこういう所が子供っぽいんだよなぁ。
クールに見えて結構熱しやすい。
人間味があってヴォイドのそういう所が、私は好きかもしれない。
思わず微笑んでしまった。
「とりあえず2人は帰ってて。私は教官の話を聞く。おおよそ、今回の選定の話と関係しているだろうから。違いますか?」
ユイクル教官に顔を向けると、大きく頷いていた。
「何を警戒しているか知らんが、選定の話だ。レイ個人に関わる話なので、部外者は去れ」
やはり舌打ちは2人同時だった。
なんとも言えない気持ちで2人を見送った。
教官室に入るとやはりというかなんというか、几帳面な部屋だった。
常々思ってたが、顔のパーツに何かが足りないと思っていたらメガネだ。
彼には必須アイテムだろう。
「何だ?」
「あ、いえ、何でもありません。それで、聞きたい事とは何でしょう?」
「ああ、そうだな。選定の話に関係することではあるのだが。選定審議については何か聞いているはずだが」
「前回では私の合否が決まらなかった、とだけ」
「そうか。現在お前の合否を審議中だ。前回の会議で何人か反対意見が出ている」
「伺っております」
「うむ。だが、最終試験をした限り資質に問題は無いと私は思っている。だが、前回保留にした。なぜか判るか?」
予想はつくが自分から言うわけにはいかない。
首を横に振る。
教官の片眉がピクリと上がった。
その場で立ち上がり私に近づく。
右手で私の後頭部を押さえられ、そのまま抱きすくめられて身動きが取れないようにされてしまった。
耳の横にユイクル教官の顔が近づく。
「単刀直入に聞く、女だな?」