168.
「まぁ、結論から言うと、現在選考にもめている」
「どういうことでしょうか?」
「お前の今までの訓練内容を見た奴らから疑問視をする声が上がってな。意外なのはユイクルのやつが反対に回らなかったということなのだが」
そこで担当教官は言葉を濁す。
「まぁ、賛成もしていないがな。迷っているようだ。疑問視している連中は今回の最終試験を見ていない。その上試験官が迷っている風だから、まとまらないんだ」
はぁ、とため息をつき酒に手を伸ばす。
咄嗟に取り上げた。
「あ、おい何をする」
「あ、いえ、無意識に。今禁酒言い渡されていますのでつい」
「そうなのか?」
そういって飲み始める教官。
こいつ、わざとだ。
「で、今回は教官だけの選考だからな。いつもなら副団長もこの選考に来るんだが、何かの案件に追われていると聞いた。次回副団長を交えて審議というところだ。ここまで決まらないってのも珍しいんだがな」
「やはり駄目だったんでしょうか?」
「気を落とすな、まだそうと決まったわけじゃない。賛成してないやつは、実際のお前の動きを知らない。訓練風景しか見たことのない者たちだけだからな。最終試験もなんか中途半端だったから、まぐれだと思われているふしもあるし。まぁ、あれを見せられてなお実力が判らないってのは、見る目が無いとしか言えないんだが。たく、あのボンクラども」
美味そうに飲むなぁ。
見てたら、のどが異様に渇いてきた。
「実際手を合わせた事のある者なら、誰でもお前の実力を評価せざるを得なくなる。それは間違いない。俺もその1人だ」
手を合わせた事のある者って、この担当教官とユイクル教官と団長くらいしかいないんだが。
どう考えても、多数決では分が悪いような。
「まぁ、裏話を言えば、実はこの訓練、各隊から選ばれた連中も混じって参加していたんだ」
「はぁ?」
そういう人がいたのか。
うわ、あの阿波踊り見られてたのかな?
恥ずかしい。
「毎回選考時にどこの隊に所属させるのか揉めるんでな。数年前から、選考委員を訓練に参加させて、目ぼしい者を選び最終選考の参考にしてるってわけだ」
「いいんですか?そんな事喋って」
「ああ、いずれ知る事になるしな」
「そうですか、では今の段階ではまだ何も判らない状況なんですね?」
「そういうことになるな。次回集まるときは副団長も来るし、何らかの決着がつくだろう」
「まぁ、行軍訓練大幅に遅れて帰ってきましたしね。色々減点対象とされることは認めます」
行軍訓練の事を言うと、担当教官がはっとした顔をした。
「お前あの洞窟からよく帰ってこれたよな。あの後調査隊が出て、色々調べたんだが、未発見の場所だったそうだぞ。ついてるというかついていないというか。その悪運だと、次の審議も乗りきれるんじゃないか?」
副団長が入るのならまだ流れはこちらにあるかもしれない。
「そうかもしれませんね」
「ということだ、すまないがもう少しだけ待ってほしい。次の審議は2日後だ」
後2日もあるのか。
この待っている時間がなんとも言えないのだが、まぁ結果がまだ出ていないのなら仕方ない。
「解りました。それでは、2日後の夜もう1度こちらに参ります」
「ああ、そうしてくれ。2日後にな」