165.
侍医長より絶対安静を言い渡されてから、ベッドの上で暇を弄ぶ羽目に陥った。
傷口の痛みも無く体は元気なのに、動くと再度傷が開くかもしれないという事で、軟禁状態だったのだ。
そう言えば、今まで私は暇だと感じた事がほとんどなかった。
なんだかんだといって動いていたからだ。
唯一暇だと感じたのは、あのおとりで牢屋に入った件ぐらいか。
暇という敵との戦いに明け暮れそろそろ本気で脱走を考え始めた5日目、やっと抜糸が行われた。
ナリアッテが面会謝絶にするものだから、顔を合わせるのはナリアッテとヴォイドくらいで数日もすれば会話のねたが尽きた。
誰も来ない部屋で5日よくがんばりました私。
抜糸後侍医長が検診を行い、ある程度動いていいとのお達しがでて思わずガッツポーズをして怒られたのはいい思い出になりそうだ。
訓練や、激しい運動は厳禁だったが、それでも歩き回っていいだけましといえる。
と言うことで、ここ数日の事を思い出しながら現在城の裏庭をゆっくりと散策中。
今まで裏庭の方には来たことがなく、こういう機会でもないとじっくり眺める事はなかっただろう。
現在季節が冬のためか、ここにはあまり花が咲いていない。
その代わりに庭師が丹精をこめて作り上げたと思われる、背の低い常緑樹のオブジェ群が庭全体に広がっていた。
個性が豊かな形だが、あれは一体誰の趣味だろう。
城から大分離れたところまで来ると、ガゼボの屋根が見えてきた。
そこで暫くヴォイドと休憩を取ろうとしたのだが、どうやら先客がいるらしい。
話し声が風に乗って聞こえてきた。
うむ、これはUターンしたほうがよさそうだ。
どうもそこでは女性陣がお茶会を開いているようなのだ。
邪魔をするのはよくない。
まきこまれる前に退散退散。
「あら、あなた方は」
げ、気づかれた?
知らないふりをするわけにもいかず、振り返る。
ガゼボの中にいたのは、花と言う表現に相応しい美女軍団だった。
「ああ、お邪魔してしまいましたね。我々はすぐに去りますのでどうぞ御歓談をお続けください」
正直名前を名乗りたくない。
声をかけてきた人物は、どうみてもトラブルをはらんだ顔をしている。
どこかで見たなと思えば、団長という名の節穴男だとかこの国の丸投げ王だとかにそこはかとなく顔立ちが似ているのだ。
近づきたくない要素が満載だ。
「では、失礼を」
早期撤退も英断だと思うな。
「お待ちになって」
くそ、呼び止められた。
涼やかな声しているくせに命令慣れしている威厳に満ちた声ってこういう事を言うんだ。
逃げられない。
「せっかくですもの。御一緒しませんこと?ねぇ、みなさん」
同意はしているが、皆戸惑いを隠せないという顔をしているぞ。
「では、決まりですわね」
うわ、結局つかまった。