164.
意識が浮上してくる感覚がある。
いつもと違う感覚に違和感を覚えながら目を開けると、そこは馴染みの部屋だった。
ピンク系の壁にファンシーな天井、あれだけ抵抗を感じていたはずなのに今ではすっかり見慣れた自分がいる。
そっと体を起こすと腕に痛みが走る。
ああ、そうだ怪我をしていたんだっけ。
頭が痛い。
血が流れすぎたせいなのかそれとも別の要因か、とにかく二日酔いの時のように痛みが走る。
ベッドでしばらく大人しくしておこう。
あれからどうなったんだろう。
皆、最終試験は通ったのだろうか?
私の場合はどうなるんだ?
まぁ、こういう事は今考えても仕方のないのかもしれない。
結果はおのずとやってくるだろう。
ノックがなった。
この叩き方はナリアッテかな?
「どうぞ」
私が大きめの声で返事をする。
頭に響き、その場で悶えてしまった。
「失礼します!!」
ナリアッテが勢いよく入ってくる。
ドア、ドアの音がぁ。
これは本気で二日酔いでは?
「ルイ様!目が覚められましたのね!?」
「う、うん。ナリアッテおはよう」
顔を見ると泣きそうになっている。
これはまずい。
最近ナリアッテの泣き顔に弱いなぁ。
今までの仕事の頑張りを見ていたからかもしれない。
「もう、このまま目が覚めなければどうしようかと思いましたの。侍医長がそのうち覚めるとおっしゃっておられましたが、5日も意識がないままだなんて」
どうやら今回は5日意識を失っていたようだ。
連日の疲れが出ていたせいかもしれないな。
「お体は大丈夫ですの!?」
勢い込んで聞いてくるナリアッテ。
オ、オウ。
近い。
肌綺麗だな。
「おかげさまで。ナリアッテのおかげで元気が出たよ」
なるべく安心させるように笑顔で答えた。
実は会話するたびに頭痛が走るが顔にはださん、ださんぞ。
取り敢えず動かなくなったナリアッテを引き剥がしにかかる。
5日風呂入ってないから。
やはり気になるからね、そういうの。
女だもの。
ええ。
この国で9割が私のことを男だと言っても、自分だけは信じてあげなければ。
最近自分でも疑うときがあるが……
「あ、ああ。うっかり……ォホン。ルイ様、喉が渇いておいででしょう?何か飲む物をお持ちいたしますわ。それから侍医長も」
そう言って、ナリアッテはこの部屋を足早に出て行った。
程なくして、侍医長が入ってくる。
早いな。
「ああ、目が覚めましたね。よかったです」
この侍医長、どうも治療中は人格が変わるのかもしれない。
私が意識を失う寸前かなり口調が荒かったのを覚えている。
一見和み系だが、本性は違うのかも。
「この指は何本に見えますか?」
「1本です」
「よろしい、意識ははっきりしていますね?吐き気とか、他気になる症状はあありませんか?」
「吐き気はないですが、頭痛がします」
「そうですか。もし今後、その頭痛に加えて吐き気を催すようでしたら、すぐにおっしゃってください。すぐですよ?我慢をしてはいけません。いけませんよ?」
なんだか子供になった気分だ。
二度も念押しされてるし。
もう三十路すぎ……
いや、考えるまい。
頭を振ったら頭痛がぁ。
「えーと大丈夫ですか?続けますよ?あなたの怪我は大きいものが3つありました。今回無茶をした事で、それぞれから出血をしていました。女性なのでなるべく跡が残らないよう尽力いたしましたが、やはり限界があります。恐らくそれらの傷は……」
ああ、別に気にしないのに。
服着てれば判らないし。
むしろ、傷跡見せて回るほうが問題あると思うが……
露出狂じゃあるまいし。
「あ、ぜんぜん気にしていません。跡が残っても平気ですよ。背中と前に関しては故意に見せないと判らないでしょ?」
「しかし……」
「大丈夫大丈夫。そんな相手いないしね。傷を放っておいた私もどうかしてますし」
あ、なんだか物凄く虚しい事言った様な気がする。
それより、何故私は侍医長を慰めてるんだろう。
「あまり、大丈夫な気がしませんが、私としても今後出来うる限りの治療をしたいと思います。抜糸をするまで後5日は待ってください。それまでに持てる薬を使えるだけ使って、治癒にあたりたいと思います。あなたも抜糸が行われるまで、絶対安静です。食事に関しても細心の注意を払いますので、安心してください」
「判りました。ありがとうございます。よろしくお願いします」
頭を下げた。
「あ……」
ん?
「いえ、中々礼を言われるという経験がないものでしてね。陛下や殿下には言われる事があるのですが、他のかたがたは言わないのが普通なもので……人に礼を言われるとはこのように気持ちのよいものなのですな」
あ、何か照れているようだ。
和み系の照れと言うのは見ていてほのぼのするのはなぜだろう。
こう、縁側で緑茶を片手に月見をしたい気分だ。
あ、月見酒もいいな。
日本酒飲みたい。
後、使えるだけの薬ってナニ?
治療費の請求がコワイ。