162.
「おい!」
誰だよ体ゆすってる奴。
うるさいな。
「うるさい、寝かせろって」
余りにしつこいので、思わず言ってしまった。
本気で眠いんだって。
目もあかないし。
「うるさいだと!?まぁいい、今から医務室へ運ぶ。そのままおとなしくしていろ」
この声は確か……
駄目、眠すぎて思考がまとまらない。
それにしても、医務室って何で?
ああ、怪我しているからか。
腕のやつ、結構はいってたからなぁ。
出血もあったし。
止血はしたから、なんとかなると思ってたんだけど、甘かったのか。
あぁ、胸のほうの傷が開いたのも影響しているかもしれない。
手当てきちんとしてくれるならありがたいが……
ん?
医務室?
手当て?
医務室で手当て!?
やばい!
一気に目が覚めた。
手当てとか無理!
バレる。
「おい、こら暴れるな!落ちたらどうする!?」
落とす?
よく見ると宙に浮いていた。
んなわけない。
ただ抱えられているだけだ。
ユイクル教官に。
かの有名な抱かれ方で。
何でこの持ち方なんだ。
しかも一人で運んでるし。
普通に担架来るまで待てばよかったのでは?
いかん何故かイライラしてる。
落ち着かねば。
それにしても寒いな。
冬の寒さと言うよりかは、貧血で体温低下を起こしている感じだ。
そこまで酷かったのだろうか?
ん?
あのさわり心地のよさそうな髪の持ち主は、ジェイだな。
あれで隠れてるつもりか?
体1/3出てるよ。
何故尾行の形をとっているのか疑問だが。
手を振ってみると、嬉しそうに振り返してた。
駄目だろう。
でも、なんだか和んだ。
後ろからついてきている人数は4人プラス4人ってところか。
いつものメンバーに違う気配がちらほら。
「あのー、意識もはっきりしていますので、歩きます」
さすがに皆の前でこれは無いわ。
「お前は怪我人だ。怪我をさせた自分が運ぶのは当然だ」
「あ、いや、だから自分で歩けるのですが」
頼むから下ろしてくれ。
腰が痛いんだ。
「余計出血したらどうする。大人しくしていろ」
「何も1人で運ばなくても。他の人にでも手伝って貰えば」
「お前は、ば……!はぁ」
人の顔を見て溜息つくなよ。
失礼な。
「周りの者がこられて困るのはお前のほうではないのか?」
どういうことだ?
「はぁ。まあいい。どういうことなのか説明は治療が終わったら聞く」
だから、人の顔見て溜息とか。
取り敢えず降りるか。
今の体勢から教官の両肩に手をかけそれを力点とし、背中に回った腕を支点にして両足を勢いよくあげる。
その勢いで体を捻り、着地した。
って、痛い。
腰が、腰がやられた。
ついでに怪我した所にも響いた。
「なっ、いったい何をしてるんだ!」
「いや、歩こうと思って」
「その出血で歩けるわけが無いだろう」
「大丈夫です。今までもっと酷い怪我した事がありますが、その時も歩いてましたから」
あの時は大丈夫ではなかったが、人間死に物狂いになれば何でも出来るものだ。
「もっと酷い怪我!?どうしたらそういう状況になるんだ」
ほっといてくれ。
黒歴史の51ページ目だ。
「まぁ、過去には色々ありまして。そんなわけで歩けますんでご心配なく。ではここまで本当にありがとうございました。ここから先は一人で行けますんで、では!」
早歩きで医務室へと向かう。
場所は知らないが。
取り敢えず後ろのギャラリー全員まく必要がある。
女だとばれるのはまずい。
行くのはまいた後だな。
あれ?
それだと医務室へ先回りされるだけか。
教官にはああいったが、治療をしないといけないのは事実だ。
医務室へ行かずに治療を受ける方法と言えば……
ナリアッテかぁ。
うわぁ、どう言い訳しよう。
森から帰ってきてまだ会ってもいない上に、怪我までしてるとわかったら。
いや、もう知っているな。
「おい、待てと言っている!」
げっ、追いついて来た。