160.
目を開けるとヴォイドの顔が、真ん前にあり驚いた。
ヴォイドって目がグレーに近い青なんだな。
初めてまともに見たかも。
「ル……ルイ」
何か驚いてる?
寝起き顔があまりに酷いからだろうか?
ここ数日の疲れが出てるとか?
諦めろ、私。
それは数日経っても治らん。
「もう順番回ってくるかな?一眠りしたし、起きておこう」
「え?えぇ、そうですね。まもなく順番が回ってくると思います」
ちょうど部屋のメンバーの順番が回るようだ。
いいタイミングで起きれたみたいだ。
ついてる。
で、結果だけを言うと、負けた。
いや、私ではなくジェイ・クィリム・ウィルの3人だ。
今日はウィルの調子がいいらしく、剣の捌きが冴えていたのだが、いかんせんジェイ・クィリムは徹夜組だ。
少しばかり動きが鈍い。
ウィルのフォローが何とか功を奏していたが、それも続かず相手に隙を突かれた形になった。
連携の形は悪くなったので、そこの評価に期待したいところだ。
ヴォイドは、連携をみるという次元ではなかった。
彼一人で防御と攻撃やってしまうもんだから、テストの意味無い。
だったら、残りの人たちと私で3人1組で再試させて貰えないだろうか?
駄目?
駄目ですか。
そうですか。
ユイクル教官より却下いただきました。
本当にやりたくない。
やりたくないランキング10位以内には入っている。
ここまでネガティブになる相手って久々だわ。
「何をしている!貴様、早く来ないか」
呼び方が貴様に変わってますし?
本当私何かしたんだろうか……
私が教官の前にたどり着くより早く、攻撃を仕掛けてきた。
咄嗟に躱す。
って、フライング。
試合開始の合図とかなかったよね?
もう本当に殺る気満々だな、この人。
次々来る攻撃を避けながら、攻撃しようとするが早くて攻勢に出れない。
「オーイ、レイ。昨日の約束思い出せー。あれ使えー」
この間延びした声は、担当教官か。
「あ!そうだレイ!あの技解禁だから!遠慮せず使っちゃえ」
忘れてたなクィリムの奴。
「ふん。貴様の技量など児戯に等しかろう。無駄な足掻きはよして、さっさと騎士団を去ればいい。落ちこぼれなどここにはいらんからな」
とことん上から目線だな、ユイクル教官。
なんだか久々に火がついたわ。
解禁と許可も取れたことだし、私らしくやらせていただきます。
はい。
上段からの攻撃を一旦受け流し、体勢を整える。
続けてくる右横からの攻撃を剣を滑らせながら受ける。
そのまま剣を奥に滑らせ剣の腹を教官の鍔に寄せる。
勢いがあるうちに、そのまま体重を鍔にかけ、軸になっていないフリーな片足で教官の右わき腹に捻りを入れながら膝で一発入れる。
左に流れていた教官の体は そのことで前へと傾ぐ。
隙を逃さず、剣を逆手に持ち鳩尾へ剣の柄で一突きしようとしたが、すんでの所で躱される。
体を沈めたままの体勢で、ユイクル教官の右足を後ろから前にかける。
少しバランスを崩した教官がすかさずバックステップを踏む。
「どういうつもりだ。剣を使って勝負にも出られんのか。このくず」
くずに降格されました。
それにしても、隙が無いなぁ。
まともに剣でぶつかり合おうものなら筋力差でどうしてもこちらが不利だ。
しかも相手は手加減してこれだからな。
このままだと正直悔しい。
バカにされっぱなしというのもあるけど。
「しかも、弱いくせに本気を出していないと来ている。弱いなら弱いなりに本気でかかってきたらどうだ?それくらい見抜けんとでも思ったか?どうやらお前の読みは3歳児並みのようだな、馬鹿めが」
罵倒の仕方が3歳児のあんたに言われたくないよ。
パンチの無い罵倒は、いらいらする。
言うならガツンと 言ってくれ。
さて本気をご所望なようなので、力を入れてみようかと思う。
頭を切り替え、完全な戦闘モードに入る。
気を落ち着かせ、徐々に周りの音を締め出していく。
先程まで聞こえていた、ジェイたちの声や担当教官の間延びした声が消えていく。
目を瞑り自らを暗闇に包むと、戦場は静謐な無風の湖のようになり、さらに呼吸を整えると宇宙の果てにいるように音も時間も空間も無い闇の中へと誘われる。
恐らくここに至るまで1秒もかかっていないだろう。
なのに恐ろしく時間がかかったように自分は感じた。
自分の体から戦闘の臭いが立ち込めているような気がする。
慣れ親しんだ過去のにおいだ。
おぞましくも芳しい、封印した過去の匂いが自分に纏わりつくのが解る。
呼吸をゆっくりと繰り返し、気を廻らせ辺りに馨りを撒き散らす。
目を開き、相手の眼を一切の感情を排して見つめる。
さぁ、ダンスを始めようか。