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自称現実主義者の異世界トリップ  作者: GUOREN
現実主義者(自称)の帰還
157/228

157.

部屋を出て、しばらく歩くとリプファーグを呼び止めた。

指導教官の部屋の前だったからだ。

ここでエンブレムを貰わなくては。

「リプファーグ、教官にエンブレムを貰いましょう」

「え?あ、ああ。そうだな」

どうしたんだろう。

上の空だな。

「失礼します」

中に入ると指導教官がいた。

机にあるエアエイが非常に気になる。

思わずごくりと唾を飲み込んでしまった。

うわ、これ見よがしに飲みやがって。

羨ましいな、このやろう。

「よう、迷子」

やかましいわ。

「ただいま帰還いたしました」

「おう、ご苦労。お前らが最後の帰還者みたいだぞ。で?わざわざ俺に会いに?」

「いえ」

「そこは嘘でも会いに来たと言え」

「……で、貿易都市での事ですが、エンブレムを盗られました」

「て、無視かよ」

「で、予備のものを貰えると、ジュハフィーグ治安維持隊のセジャンウィヌプさんが教えてくださいまして」

「おお!?」

なんだ、なんだ?

「なっつかしい名前だな」

知り合いか?

「ああ、すまない。かつての部下だ。それにしても、また盗難か。ここ1年間で、多いな」

教官がふぅとため息をついている。

どうやら、結構件数が多いようだ。

「分かった。予備は最終試験後に渡そう。お前ら、明日が試験だって事はもう伝わってるか?」

先程教官長から教えてもらった。

まさか試験に間に合うとは思わなかったが。

「先程教官長から」

「そうか。ではそういう事だ。明日は寝過ごすなよ」

「試験内容を教えていただけないのでしょうか?」

リプファーグが教官に質問をする。

「あ?いや、そうか、教官長なら有りうるな」

あの人説明よく省くしなあ、とか聞こえた気がしたが無視しておく方がいいのだろうか?

「あー、まあ説明するほどの事でもないのだが。明日は、対戦方式で剣を振ってもらう事になる。3対3ずつで行う。そうなると、1人余りが出てくるんだが、余ったやつはユイクル教官とやる事になっている」

そこで言葉を切ってこちらをチラッと見る教官。

うわっ、嫌な予感。

「で、余りってのがお前だな、レイ」

そのにやけ顔が腹立つ。

エアエイ全部飲むぞ、こら。

その年代が美味しいのは、リサーチ済みだ。

「お前もしかして、ユイクルに何かしたのか?」

いや?

記憶にないな。

「いいえ」

「そうか?今回の対戦の組み合わせは行軍訓練の帰着順になっているんだが、余り候補にお前の名前が上がった途端に、ユイクルが何か色々言い出してだな。挙句に対戦は自分にさせてくれとか提案してきて、反対すると色々面倒なので、そのまま決定になったんだが、その時の奴の様子が少し尋常じゃなかったのでな」

それほど私が嫌いか、ユイクル教官。

あ、なんか明日憂鬱になって来たかも。

「あの教官、私とレイとを交代する事は出来ないでしょうか?」

ん?

リプファーグ?

「は?あれ?お前らって仲悪くなかったか?」

指を指すな指を。

「まぁ、いいか。そうしてやりたいんだが、俺あいつ苦手だから説得するのは嫌」

嫌とか、子供か。

あ、いい事思い付いた。

どうやってこの話を持っていこうかな。

「そんな!」

「1度言い出すとユイクルの奴、煩いんだわ。レイとやりたがってるんだし、対戦すれば納まるだろう。おい、レイお前、一発がつんと伸してしまえ」

伸してしまえとか、教官こそ何かあったのか?

「嫌ですよ。そういう手合いって、下手に勝つと逆恨みしそうじゃないですか」

「お?勝つ見込みはあるんだな」

「勝てるかどうかは別として、負ける気ならあるという話です」

「それじゃあつまらんだろう。お前あれ使えや」

あれってなんだ?

「ほら、前の入団試験の時に団長相手に使ってたやつ。集団訓練の時にも剣術ではなかったが俺にも使ってただろう?あれだよあれ。あれ使え、な?」

ああ、あれかぁ。

「嫌です」

「早いな、おい。使ったら勝てるぞ?てか、命令。教官命令って事で決定。と言うことで、リプファーグ、お前の提案も却下な」

「そんな!」

命令って、子供じゃないんだから。

それより、よしよしこれで飲める。

「うーん、それでは飲み比べで決めませんか?私に勝ったらって事で」

食いつけ。

食いつけぇ。

「命令と言っただろうが。まぁ、いいか。よし、判った」

よっしゃ。

ユイクル教官との対戦って、どうせ真剣にやっても勝てないだろうし、相手は私の事嫌いみたいだから、まともな試合じゃなさそうだしなぁ。

正直飲まなきゃやってられないって。

グラスを勝手に用意してたら、教官にあきれられた。

「お前、初めから飲むつもりだっただろう。まあいい。よし、はじめるか。リプファーグ、そこのエアエイをこの2つに注げ」

私が用意したグラスを指差す。

「何故私が」

「まぁまぁ、気にしない気にしない」

そうして、注がれたエアエイを一口飲む。

来た来た来た、これこれ。

久しぶり、会いたかったよ。

ああ、激ウマ。

ハイピッチでエアエイ1本空けた後、ハイジェク・エウェジークと順に空けていく。

はぁ、いいお酒。

幸せ。

「やるな」

教官の一言に、ニヤリと返した。

途中からリプファーグも加わり、結局は飲み会のような形になる。

教官の持っている酒はどれもいい物ばかりだ。

外れなし。

リプファーグはエウェジーク2杯目で既に出来上がったようだ。

教官に絡んでいるが、2人の会話が噛み合っていない。

微妙に見ていて面白い。

リプファーグ、そろそろ飲むのはやめたほうが良いんじゃないかな?

教官はというとまだ酔ってもいないようだ。

私はそろそろ回り始めている。

エウェジーク2本目は流石に、きつい。

椅子の背もたれにもたれよう。

あ、この椅子座り心地いいな。

欲しい。

足を組んで肘掛に腕を置いて頬杖をつく。

この体勢が一番楽だ。

「うっ、はぁ……」

ふはぁ、落ち着く。

思わず吐息をついてしまった。

あ、地図だ。

右の壁に張られている地図を目線だけで見る。

これも南が上なんだな。

「ん?」

視線を感じたのでそのまま正面を向く。

教官が固まっている。

酔ったのか?

もしやっ、リバースか!?

「何、どうしたの?」

思わず腰を浮かせる。

「あ、い、いや。何でもない」

大丈夫ならいいんだけど。

教官、慌ててお酒ついでるけど、それストレートで飲む気か!?

どういう肝臓しているんだろう?

強すぎだ。

勝てる気がしない。

「それよりレイ、お前酔ってき」

「レイ、言っておきたい事がある!」

突然立ち上がって、どうしたんだリプファーグ。

演説でも始める気か?

「婚約しよう」

「たんじゃ、ってはぁ!?」

教官が驚いている。

大丈夫、私もだ。

「えーと、お断りいたします」

酔っぱらいの戯れ言には、付き合いたくない。

元より婚約とか、正気じゃないな。

「って、早いな返事。あーまあ、普通はそうなるよな。あ、言っておくがリプファーグ、俺は女が好きだから、好きなはずだから。多分。いかん久々に酔ったか?」

いや誰も聞いていないから、教官。

リプファーグはすでに落ちた。

ん?

外が騒がしい。

「…て!……イ…!ち…………て!」

「……が……って来ていると!」

「わかったから、まてって!」

「教官長…きけ……かる………、あわ………」

うむ、元気そうだ。

「教官、いささか私は酔ったようです。この勝負は私の負けですね。では、リプファーグの事頼みます」

酔いつぶれて、突っ伏しているリプファーグを指し示す。

明日大丈夫かな?

「おう、任せておけ。また飲もう。お前は賭けに負けたんだ、明日は勝てよ」

肩をすくめて、さあねとジェスチャーしておく。

「二日酔いになっていなければ、善処します」

敬礼をして、その部屋を後にした。

ふー、飲んだ飲んだ。

満足、満足。

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