155.
「リプファーグ!大丈夫ですか!?」
リプファーグが腕を押さえ呆然としている。
近づきよく見ると、厚手の上着の袖の部分が大きく裂けている。
幸い怪我はしていないようだが、顔が青い。
「やられた……」
「え?」
「エンブレムを取られた」
なぜエンブレムを?
そういえば、先日のクムージォの服飾工房で騎士団の隊服に似せた服が流行ってるとか言っていたな。
もしかして、エンブレムって高く売れるのかもしれない。
「どうしますか?捕まえますか?」
「出来れば」
先程の子供は、すでにいない。
地理に詳しくない私が無闇に探しても無駄だろう。
情報が必要だ。
酒場、か。
聞いてみるか。
もしそれで駄目なら、騎士団の駐屯所へ行った方がいいな。
よし。
「では、酒場に戻ります」
「え?追いかけるのではないのか?」
「ここの地理に詳しくない者が闇雲に追いかけるより、まずは情報を入手した方がいいでしょう。あそこの店長なら何かご存じかもしれません」
後ろの酒場を親指で示し、目で送る。
「それに先程肉を渡しましたので、店長が知恵を貸してくれるかもしれません」
「なるほど、そうか。いや待て。あいつはどうするのだ。先程絡んできていた男」
「ああ、ラポッポですか?うーん。その時の状況に応じて対処します。ええ」
本音を言うとエンブレムなんか置いておいて、先に城へ帰りたいところだが…
少し気になる事が出来てしまった。
それを探るだけの時間はほしいな。
「……そうか。わかった」
店の中に入ると、オーナーに驚かれてしまったが、先程の件を話すと快く情報をくれた。
むしろラポッポの方が詳しかった。
どうもまだ舎弟の件に拘っているらしく、事細かな説明をくれた。
ラポッポによると、この貿易都市で隊服のエンブレムが盗まれる事例がこの一年間に何件か発生していたらしい。
特徴的なのは被害者が皆訓練生との事。
まぁ、そうだろうねぇ。
この酒場周辺は、ケイオエルジュという元締めが仕切っており、先程の子供はその子飼だろうとの事。
で、アジトは貿易都市東側の居住地域にあるそうだ。
隊服に似せた服の注文の増加、エンブレムの窃盗、夜会での襲撃者。
何となく線として繋がる気がするが……
まあ、いい。
取り敢えず、駐屯所へ先に行き報告を上げる。
で、その上で指示に従う形がいいだろう。
これ以上首を突っ込むと、きっとろくな事がないだろうし。
うん、別の案件に絶対に巻き込まれるな。
よし、さっさと報告をして、駐屯所の騎士にリプファーグのエンブレムを何とかしてもらおう。
予備ぐらいくれるだろう。
「リプファーグ、駐屯所へ行きましょう」
「アジトに向かうのではないのか?いや、いい。レイ、君に任せるよ」
任せられました。
駐屯所の場所はっと。
確か、ここから南と北に1ヵ所づつあったか。 城に近いのは南のほうだな。
そちらへ行こう。
「では、行きましょうか」
何とか、ひどい遠回りせずにたどり着いた。
取り敢えず、目の合ったあの人に聞いてみるか。
駐屯所の入り口付近に立っていた2人組みのうちの1人に声をかけてみる。
「何か用か」
「はい。自分たちは、王都軍所属仮訓練生であります」
えーい適当だ。
間違ってても察してくれ。
「な!?まだ残っていたのか!?おい、クルフォドゥミ!」
何だ何だ?
「はっ」
隣の人は、クルフォドゥミというらしい。
「人数揃ってたんじゃないのか!?」
「いえ。1名だけ揃っておりません。明日までに揃わなければ捜索隊を出すと、通達が」
ん?
1名?
「それはいつだ?」
「早馬で到着したのが……」
「先程のあれか」
「はっ」
「そうか。最後の1名……1……まぁ、いい。仮訓練生といったな?」
話がまとまったのかこちらを向く。
うっすら額に汗を浮かべている。
よほど焦っているようだ。
それにしても1名とはどういうことだ?
「はっ」
敬礼をする。
「2人とも、一度中屯所の中へ入ってくれ。クルフォドゥミ、悪いが中へ連れて行ってくれ。ん?」
こちらをまじまじ見てくる、騎士その1。
「どこかで見た事があると思ったら、この間ミルの奴と一緒にいなかったか?」
ミル?
ああ、ジーマの事か。
「はい。確かに半月程前に一緒に行動していました」
「やはりあの時の奴か。ん?おかしくないか。何で仮訓練のやつがミルやキース隊長と」
「ミル?キース隊長?」
「申し訳ありません。それ以上はお答えしかねます」
説明が面倒だ。
スルーしろ 、スルー。
「そうか、では中に入って暫く待機だ」
何かを察してくれたらしい。
それ以上追求されなかった。
よかった。
「了解しました」
再度敬礼をし、中へと案内された。