154.
「やっぱりだ。この間の」
呼ばれたので振り向くと、そこにはひと月程前にこの店で乱闘した、ポパ……いや ラパ、違うな。
えーとなんだっけ。
そうだ。
「ラポッポ!」
「ラポイだ!」
「……」
「……」
「……そうか。で、何か?」
「知り合いか?」
リプファーグに聞かれたが、知り合いというのも一度だけしか会ってないしなあ。
「いえ、知りません」
「それはないぜアニキ!」
は?
今なんと?
「あれから、ずっとアニキを探し回ってたんだぜ」
おい、そのアニキというのはもしかして私の事か?
「あんなにきれいに負けたのはあれが初めてだ。あの日、ロープに縛られていた間中アニキの顔はぜってー忘れないって決めてたから、ずっと顔を見続けてたんだぜ」
何それ、怖い。
「それからというもの、この街を必死に探してて。でも見つからねーし、もしかしたらここに通えば会えるかもしれないと思って、待ってたんだよ」
「なぜこの男は、アニキと呼ぶんだ?レイはお」
「アニキ!頼む。俺をあんたの舎弟にしてくれ」
おい、われ、どこの組のもんや。
って違う。
いくら日本の任侠映画が好きだからと言っても、私はマフィアじゃない。
舎弟とかいらないから。
どこの組の構成員だよ。
「間に合ってます」
「そいつか?そいつがアニキの舎弟なのか?そいつがいるから駄目なのか?そいつを倒せば、俺は舎弟になれるのか?」
は!?
待て待て待て、なぜそうなる。
なにそれ、舎弟の座強奪宣言。
「いやいやいやいや、彼は舎弟どころか私より強いから。何故そんな話に……」
「アニキは俺より強い。そういう人の元にいれば、自然と強くなるものだ。俺は強くなりたい。だから俺は俺より強いものの下につく」
「私は今騎士団に所属しているんだ。舎弟だとかを持つわけにはいかない。だからラポイ」
彼の眼をしっかりと見つめて、続きを話す。
「すまないが、諦めてくれ」
「そんな。俺はこのひと月ずっとアニキの事だけを考えてきた。探し追い求めてきた。俺が、騎士団に入れば側にいられるのか!?そうすればアニキの舎弟になれるのか!?」
両肩を掴まれ揺さぶられる。
中身が飛び出る、やめれ。
「強くなりたいと言ったな?騎士団に入れば、私以上の実力の者がわんさかいる。それこそ掃いて捨てるくらいに。私に拘らずとも、すぐに師事を仰ぎたくなる者が見つかるだろう。私に時間を費やすことは非常に無駄なことだ。強くなりたいのだろう?だったら騎士団へ入って」
「違う。あれからアニキの動きが目に焼き付いて離れないんだ。あの組み敷かれた時の動き、思い出すたびに疼くんだ。頼むよ、舎弟になりたいんだ!」
駄目だ。
聞く耳持ちやしない。
「もう一度言うが、私は舎弟とかそういうのは持つつもりはないよ。どんなに頼まれても、ダメなものはダメ。そろそろ行かないと」
リプファーグに助けを求める。
って、リプファーグ、眉間のシワがヤバい。
駄目だ、気付いてない。
「とりあえず、ラポッ……イ、それほど強くなりたいのなら、舎弟の事より先ず騎士団の入団を考えた方がいい。では、我々は先を急ぐ。ここで失礼するよ。オーナー。どうも御馳走様でした。美味しかったです」
本当に旨かった。
元々この店の味付けは、私の口に合ってたからなあ。
また来れるといいな。
「そうか、それは良かった。あのもらった肉は高級食材で、しかも一番旨い部分だったんだ。釣りを渡さねばならんくらいに」
「あはは、取っておいて下さいよ、迷惑料込みですから。それでは、我々はこれで」
「ああ、また来てくれ」
「ぜ」
「待ってくれ、アニキ!」
誰が待つか。
「よせ、ラポイ。お前は振られたんだ。振り向いてほしけりゃ、引くことも覚えろ」
オーナーが今の内に行けと、目で合図を送ってきた。
目礼で返す。
絶対にまた来よう。
オーナーいい人。
「リプファーグ、参りましょう」
その足で、店を出る。
よし、追いかけてくる気配はないな。
リプファーグも追いかけてくる気配はないな。
「どうかしましたか?」
振り向いて問いかける。
「いや、なぜあんな輩と親しいのかと」
「親しくはありませんよ。話したのは今日が初めてですし。正直参りました。そろそろ行きませんか?」
リプファーグに歩を促す。
「あ、ああ」
なぜ進まないんだ。
ぼーっとしてるから子供にまでぶつかられて。
何をやってるんだか。
「っつ!」
え?
あの子供!
「リプファーグ!大丈夫ですか!?」