153.
「食べていかないのか?」
は、はは。
元手ないです。
お金なんざ持っていません。
「ちなみにお聞きしますが、所持金はおありですか?」
「いや?」
「……」
「……」
「……」
「えーと、店長さんここで失礼いたします」
「あ、はい。よければまた来てください」
「そうします」
くそ、久々に恥ずかしい思いをしたよ。
穴無いかな?
あったら入りたい。
「あっと、そうだ。よかったらこれを」
荷物を軽くするため、余った肉を情報料の代わりに店長に渡す。
残りはこれだけあればいけるか。
余れば、城のシェフのイグプリームさんかシノヤカさんにでも渡しておこう。
この間乾物大量にもらったし。
「これは!!しかもこんなに沢山。おいしいといわれている背中の部分をよくこんなに」
見ただけで判るのか。
正直どこの部位とか全然判らない。
それが顔に出ていたのか 、この後店長にこの肉がどれだけすごいか力説された。
正直なところ煮ても焼いてもどこまで行っても奥行のない肉の味しかしなかったのだが。
調理法を間違えると不味いと教科書には書いてあったので、私のやり方が違っていたことは間違いない。
「解らないという顔ですね?いいでしょう。もし、お急ぎでなければこちらで座って待っていてください。どれだけすごい肉なのか証明して見せます」
なんだか食べる方向になっているのだが、いいのだろうか。
お金ないぞ、私。
「レイ」
「ん?なんでしょう?」
「私は何か間違ったのだろうか?」
さっきの店長と私との反応と会話で、リプファーグは自分が間違ったかもしれないと悟ったらしい。
「えーと、そうですね、この国においての経済活動は今現在資本を基にして行われています」
「は?え?ケイザイ?シホン?」
「はい。乱暴な説明をすれば働く事で得るものが資本ですね。経済はその資本によって行われる社会活動とでもいうのか、まぁ、経済についてはまた今度」
「あ、ああ。つまりシホンとは金の事でいいのか?」
「大まかには、はい。何かを得るためには、何事においても対価を払わねばなりません。特に形のある物を得る時には、資本を必要とします」
リプファーグの顔を見ると、どうやらそういう事は頭にはあるらしい。
「つまりここでの食事においても、資本がいるわけです」
「ああ……そういう、事か。だからレイが所持金の事を聞いたんだな」
落ち込んでしまった。
きっと頭で解っていても、自分で支払う機会が少なかった為に今一ピンとこなかったのだろう。
普段は家に請求書が届き、家で支払いって感じなのではないだろうか。
なのでその感覚のまま、資金がなくても食べられると勘違いしての先程の発言だったのかもしれない。
リプファーグがなんか悩ましい顔をしている。
通りすがりの給仕のお姉さんが、がん見してるんだが。
よくぶつからないな。
「まあ、今からタダで何か食べれそうですよ」
店長に視線を戻すと、満足そうな顔で料理の皿をこちらに運んできていた。
「これを食べれば先程の肉がいかに凄いか判るだろう。伝言伝えただけで貰う分としては、あの量は多すぎだ。この間の事もあるので、良かったら食べて行ってくれ」
「あ、店長ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えて」
いい匂いだ。
調味料もきっちり使っているので、複雑な味わいが楽しめた。
エアエイでフランベでもしたのか、一口入れるたびに芳醇な香りを楽しめる。
付け合せのグラッセの甘さがさらに肉のうまみを引き出し、いい具合に相乗効果となって肉を引き立てている。
ああ、なぜこの手元にお酒がないんだ。
「おい」
食事の邪魔するなよ。
どうして料理待ちの時に来ない。
しかもこれで2度目。
勘弁してよ。