15.
昔々あるところに浦島という男が海辺に住んでおりました。
ある日漁に出ようと海に行くと、亀をいじめている子供達に遭遇しました。
それを見た浦島が、その子供達に小一時間説教をしていると、見かねた亀が言いました。
「にーさん、いいところに連れてってあげるから、その子らを解放してはどうだ?」
そうそう、暇ではない浦島は子供達を解放する事にします。
喋る亀は、よく解らないのでそのまま放置。
取り敢えず、浦島は漁に出ます。
すると天候が急に悪くなり、大時化となりました。
大波による船の転覆で死にかけた浦島は、あの亀に助けられます。
気がつくと、浦島は竜宮城という場所にいました。
浦島は暫くその竜宮城で療養する事になり、過ごすうちに竜宮城の主の娘に一目ぼれをしたのです。
家にも帰らず暫くここで過ごした浦島は、その姫と結婚を果しました。
しかし、自分の両親にはまだ結婚した事を告げていません。
遅ればせながらその事を思い出した浦島は、報告する為に1度戻る為に暇乞いを城主に告げました。
竜宮城の城主は寛大な心を持って、浦島を一旦家に帰してやる事にしたのです。
浦島は礼を言い、一時地上へと帰還を果たしました。
ところが着いてみると、自分の家はなく代わりに碑が建ててありました。
周りの風景も一変しています。
見た事もない船、建物。
ここが未来だと、浦島はようやく気付きました。
もう一度碑を見ると、よく解らない文字が書かれています。ただ"水江浦嶼子・死・参拾五"と書かれてあるのだけは読み取れました。
その碑の隣に建っていた、亀に乗った男の像は解せませんでしたが……
ようやく浦島はこの碑が墓碑である事に気付いたのです。
嘆いた浦島は、土産にもらった玉手箱を自分の墓に思わず投げつけてしまいました。
すると浦島は、みるみる老けていき最後には朽ちた骨しかその場に残りませんでした。
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「あー、アークオーエン様。実はお話ししておきたい事があります」
宗谷英規から放たれる、視線の痛い事痛い事。
ちゃんと説明するから勘弁して~。
「何でしょう」
あ~、なんという微笑。
きっと、この笑顔に心動く娘さんは多いだろうね。
美形は本当にすごいと思う。
軽く咳払い。
「もうお判りかと思いますが、先程お伝えした名は偽名です。私の本当の名は琉生=多田と申します。自分のおかれた状況が把握出来なかった為と、不測の事態に備えた為に偽名を名乗りました。大変申し訳ありません」
ここで頭を下げる。
「頭をお上げください。先ほども申しました通り、貴方に関する疑いは先ほど晴れました。確かに容疑者のままであるならば、偽名は問題となるでしょうが。ですが実際に今、貴方は本当の名を明かしてくれました。それでいいと私は思っています」
「そうおっしゃっていただけると助かります」
少しほっとした表情で言うと、二コリと微笑まれた。
うーん、この無駄美形め。
「えーと、早速で申し訳ありませんが、質問をしても宜しいでしょうか?」
「どうぞ。一通り質問していただいて、私が補足する形で話を進めて参りましょう」
そして私が疑問に思っていた事を質問していった。
そして判った事が以下の通りだ。
宗谷英規と私は、どういう法則かは解らないがこちらの世界に来た。
どういうわけか、宗谷自身は国に保護された。
宗谷が保護された理由としては、この世界には存在しないものを所持していたからというものだ。
一方、近くの森に落ちていた私は、たまたま通りがかった隊長らが見つけあえなく御用。御用?
不法侵入罪とスパイ容疑で、牢屋塔に入れられ寒い思いをして一晩過ごした。
その間宗谷は、周辺に落ちていたという荷物の確認をさせられ、その中に私の鞄や私物が混じっていた事に気付いたという。
鞄の中を検めた時、免許証に載っている人物もここにきている可能性があると、アークオーエンさんに指摘。
その鞄が発見された場所で捜索が行われたが、私は見つからなかった。
そこで、隊長らが報告していた容疑者が該当するのではという事で、隊長らは一旦王宮詰所に戻され詳細を報告させられた。
該当はするが、容疑も晴れない事から面会は次の日の朝という事で、いったん捜索は中止された。
そして、現在に至る。
この国が、異世界人に対して寛容なのは前例があるからだという。
そこでアークオーエンさんは、言葉を切る。
そして、壁にかかっていた絵を指さす。
そこにはよく見れば、日本人には見えなくもない人物が描かれていた。
言われなければ、気付かなかったが。
その人物の名は、宗谷奏楽。
SOYA Airの創立者で有名で、突然35歳の時に行方不明になった人物。
宗谷英規の祖父でもある。
ははは、お前かお前の遺伝子が原因か。
暗い気持ちで宗谷を眺めると、苦笑された。
はぁ、小さくため息をつく。
取り敢えず、帰れるのか聞いてみた。
すると首を横に振られた。
解らないらしい。
宗谷奏楽自身は、この地で70歳になるまで生涯を過ごされたとの事だ。
彼の遺言で、もしこの地に異世界からの訪問者が訪れた時がきたら、待遇はましなものにしてくれと言ったらしい。
相当ひどい扱いを受けたのか。
アークオーエンさん曰く、彼が来たのは400年も前らしい。
うーんこの時間差については、特殊相対性理論が関係している、かもしれない。
高速移動と時間の流れ。
あれ?でも400年って長すぎない?
ともかく、今戻ったら未来の地球に戻るわけだ。
これがいわゆるウラシマ効果というやつか。
とか、ど素人の考えで結論をつけて見る。
でだ、楽観的かつ現実的に物事を考えて見る。
絶対に地球に帰れると仮定して、考察。
パターン1・地球に執着して、何百年後の未来だろうが帰れたらそれでいいとして戻った先が未来だった場合。
地球温暖化の為、日本沈没。戻った途端溺死か二酸化炭素中毒で死亡。
パターン2・地球に執着して、何百年後の未来だろうが帰れたらそれでいいとして戻った先が1分後のあの時あの場所だった場合。
そのまま事故となり死亡確定。
地球に帰ると未来がないと思うのは私だけでしょうか?




