145.
「はぁ、はぁ。無事なのか?!」
あれ?
「まだ合図とか出してないのに」
しかもそれほど経っていないはず。
「あれだけ長ければ、合図なんて待っていられない。それでけ」
「服を脱いで下さい」
「がで、は?君はいきなり何を言いだ、って何をする!」
「何って、服を脱がないと危険なので」
くっ、このボタンどうなってるんだ。
私の隊服と作りが違うぞ。
特注か。
ブルジョワめ。
「こら、よせ!分かった、分かったから、脱ぐから、それ以上はやめてくれ」
手首を掴まれ、ボタンから手がはずれた。
じっとボタンを注視していたら、後ろを向かれた。
本当にどうなってるんだ?
あのボタン。
「君に見られていたら、脱げない」
って、中学生か。
別に減るもんじゃなし。
「へ、減る?君は男の体を見て喜ぶ変態か何かなのか」
どうやら口に出していたらしい。
変態とか失礼な。
「見て喜ぶというか、まぁ女は男の腕とか指の長い手とか腹筋は結構好きという人が多いようですが」
肉食系女子の代表みたいな友人が、力説していたのを思い出す。
「ちなみに私は手と腕が好きですね」
男の人がこうスコープを覗いてる時に、ちらっと見える腕とかそそるわ。
って、そんな事より早く脱いでもらわないと。
「ふむ、腕か」
リプファーグが腕を出したりしまったりしているが、それはいいから早よう脱げ。
「見ません。見ませんから、速やかに脱いで、体を温めてください。その間に服を乾かします。そこの毛布に丸まっていて下さい」
リプファーグが体を温めている間、明りを持って周囲を探る。
まず水の流れに沿って歩き、辿って行く。
相変わらず足場が悪い。
周囲を注意深く見渡すが、これといった突破口がありそうもない。
5分ほど歩いた所で、行き止まりになった。
水の入り口を見る。
これは、駄目だな。
私すら入らない穴は、論外だ。
念のために穴の側面を崩してみるが、ここの岩は性質が違うらしく、なかなか崩れない。
リプファーグの場所に戻りながら、今度はさらに入念に調べて行く。
すると、行きは影になって見えなかった場所に隙間がある事が判った。
ただ問題は、その隙間が若干高い場所4m程上にあって、そこへどうやって登るかだ。
あれぐらいの高さなら、登れない事も無いが、はたしてリプファーグをどうしたものか。
試しに登ってみるか。
ボルダリングの要領で登って行く。
怪我の部分は痛むが、できないことはない。
ほどなくして隙間に辿り着き、中に入り強度を見る。
すぐに崩れるような様子も無い。
さてここに、リプファーグを上げるにはどうすべきか。
やはり少しだけよじ登ってもらって、穴の隙間に手をかけて自力で上がってもらうしかないな。
下から足を支える事も出来るし、さほど難しくはないか。
隙間の位置がそれほど高くなくてよかった。
ついでに、奥も見ておく。
幸いこの隙間は途中塞がってもいないようで、奥につながっている。
匍匐前進の状態が続くが、これならリプファーグでも問題ないだろう。
確認が出来たので、リプファーグの場所へと戻るともうすでに着替えが終わっていた。
服はまだ半乾きだと思うのだが。
それから少し苦労しながらもあの隙間に登ってもらい、順調に歩を進めた。
それから次の日、落盤が起こり危うく足を挟まれそうになったりもしたが、何とか突き進む。
その先でようやく光が見えた。
出口だ。
よしっ。
外って素晴らしい。
あまりの嬉しさに、抱きついてしまったがどうか許してほしい。
「ようやく出口だな」
リプファーグも心なしか嬉しそうだ。
はやる気持ちを抑えつつ、岩をよじ登り光の元へと向かう。
出口の先で待望の外の風景見た。
そとってすばらしいー。
絶壁だがな。