144.
どちらも、潜り抜けは厳しいと来た。
「弱ったな。どうするべきか」
「上に行く方がいいのではないか?」
リプファーグの言う通り、上から落ちて来たのだから基本はそうするべきなんだけど、穴の大きさがなぁ。
リプファーグって結構上背あって、見た目よりもそれなりに筋肉もあるしなぁ。
詰るかもしれない。
「そうですね。ただ上部の方が穴が狭いようです。それに岩の部分が若干柔らかいのが気になります」
「崩れると言うのか?」
「実際やってみないと判りません。最悪の場合は、分断されたりする可能性があります。明りをもらえますか?」
リプファーグから渡された、カンテラもどきを足元にある穴に照らす。
岩を触って手の感触を確かめる。
穴の大きさが上よりはほんの僅かだけましというだけで、岩の崩れやすさ等は一緒のようだ。
「どうだ?」
「やはりここの性質かもしれませんが、岩が崩れやすくなっています。奥も覗きましたが、大きさは上も下もほぼ変わらないですね。こちらの方がまだ大きいかもしれませんが。どちらにせよ、大変なのは変わらないでしょう」
「そうか。我々は上から落ちたのだから、上の方に行く方がいいな。もし潜る事が無理そうなのであれば、こちらから出るしかないだろう」
再び上流に向かう。
ふむ、傷が痛いがそうも言ってられない。
「私が先に通ります」
穴に潜る。
その前に服を脱ぎ、バックパックの中に入れておいた。
このバックパックが防水なのは、落ちて来た時に実証済みだ。
「き、君は。君は恥じらいというものが無いのか!?」
そう言って慌てて後ろを向くリプファーグ。
ん?
下着とかサラシはそのままだ。
何を照れてる。
それより服を着たまま潜って、濡れたまま数時間いるというのはこの寒さの中では厳しい。
ましてや今は怪我をして、血が少し足りていない。
下手をすると低体温に陥るだろう。
ここに落ちて来た時無事だったのは、恐らくリプファーグがすぐに服を脱がして毛布か何かで体を温めてくれたからだと思う。
リプファーグよその時散々上とか下とか見ておいて今更じゃないか?
まだ若いからか。
ふむ。
「取り敢えず先に潜ります。終わったら声で合図をしますのでそれまで待っていて下さい」
「あ、おい、ちょっとま。うわっ、すまないっ」
寒い。
本気で寒すぎる。
早いとこ終わらせてやる。
息を思い切り吸い込み、潜水。
両手・頭・体の順に穴に向かって入れていく。
この穴の壁面がやはり崩れやすい。
途中崩れそうな、岩をわざと崩しながら進む。
少しでも広くなればと思うのだが。
思ったよりも長いな。
これは、リプファーグきついぞ。
く、腰に引っかかった。
ちょうど怪我の部分だ。
もう、泣きそうに痛い。
手で無理やり、その部分の岩を排除。
岩を削った瞬間、雪崩れるように左側面の他の岩も崩れて来た。
思わず肺の中の空気が漏れる。
幸い側面が削られた事によって増した水圧が、崩れた岩を押し流したようだ。
もしかして今ので大分、穴が広がったのではと思う。
「おい、急に水量が増しているが大丈夫か!?」
というか、返事どころではない。
呼吸がヤバい。
早く脱出せねば。
「げほっ。痛っ」
それより服!
バックパックに入っていた何かの布で大至急体をふき、服を着る。
薪と木くずとナイフもバックパックから取りだし、小型ナイフの鞘とナイフでともかく火をつける。
寒さで震えて、打ち合わせるのも一苦労だ。
なかなかつかない。
つけ、つけっての、ついてくれー。
ついた。
フはは、燃えろ燃えろ。
火種の木くずに息を吹きかけ、薪にも火がいくようにする。
どあ~生き還る。
温かい。
あ、しまったリプファーグ忘れてた。