138.
声が聞こえる。
誰だろう?
「……がおかしいぞ!?」
「ウォーレン、バイタルが先程から急激に落ちてます!」
「解った。Dr.に連絡をするって繋がらん!ハリー、Dr.ウィリスを大至急全館で呼べ!院内電波が繋がらない。俺はもう1度かけてみる!」
「オペレータ。Dr.ウィリスを大至急CS11まで呼び出してくれ!」
「このままでは心停止してしまいます!」
「部外者は出てくれ!」
『Dr.ウィリス、Dr.ウィリス、至急研究棟CのS11まで。繰り返します。Dr.ウィリス研究棟CのS11まで』
「どうなっている!?」
「酸素を全開にしてくれ」
「すでにフルです!」
「おい、CPRだ!」
ああ、これは夢か。
確か、ずいぶん前の時のだな。
知人が入院した時の事だ。
一瞬心臓が止まって、その後何とか助かったと聞いて、皆で騒いでたらスタッフから怒られたっけ。
どうやら夢を見ているらしい。
何故この夢を。
「先輩、どうしたんすか?ぼーっとして」
え?
今度は、堂島?
「なんか雨やまないですね。先輩気をつけて帰ってくださいね?」
ああ確か、こっちに飛ばされる前の時のか。
この後車にのって、家に帰る途中雷落ちて。
「おい、聞いているのか」
そうそう、キースがいらつきながら聞いてきたんだっけ。
牢屋に入れられてたんだよなぁ、私。
その時に見た、月の個数に衝撃を受けて、異世界を受け入れて。
その後色々あって、騎士団に入って。
「やぁ、久しぶりだね」
えーと、誰だっけ。
「ア、琉生ってばひどいなぁ。俺を忘れるなんて。ここでは1度会ってるのにな」
本気で判らない。
私がそう言うと、悲しげな顔をする。
なぜ。
「Dr.!バイタルが戻りません!!」
「2アン追加しろ!」
「AED準備!」
「あはは~、1時間以内で終わらしますよ、こんなの」
「キース、待たせたな」
「あ、隊長」
「どうだ、何か話したか」
色んな場面が、凄まじいスピードでぐるぐる回る。
酷く気持ちが悪い。
「しっかりしろ。琉生。俺を見ろ。わかるか?」
スーっと、ぐるぐる回っていた場面が真っ白に変わる。
少し落ち着いた。
「助かったよジオ」
あまりの気持ち悪さに、本気で感謝した。
「そうか、よかった。ここに居るのは今はあまり良くない。元の所に戻すのはすぐには無理だけど、せめてさっきまでいた場所には、送らせて」
妙な事を言うなぁ、夢なのに。
送るだなんて。
「そう?ではお言葉に甘えて」
気取った態度で言ってみたが、堪え切れなかったのか笑われてしまった。
「どうぞ、ミス」
肩が笑ってるぞ。
手を取った瞬間、発光し再び辺りは闇色になった。
それが自分が目を閉じているせいだと気づくのに、暫くかかった。
ふと風に載って、小さく声が聞こえた様な気がした。
『名前、思い出してくれてありがとう。出来れば忘れないでくれ』
目をあけると、はじめに痛みが襲う。
アバラ辺りと背中側の左わき腹と足の付け根。
他諸々。
背中の痛みは、恐らく荷物から突き出た何かが刺さったのだろう。
アバラと足の付け根は、よく判らない。
地面に叩きつけられた時に、衝撃で痛めたのかも。
背中の怪我の確認をしておきたいが、暗くてよく判らない。
直接触ってみたら、手当をしてくれたようだ。
包帯が巻かれている。
恐る恐る、身体を起こそうとすると、怒られた 。
「君は、怪我人なんだ。横になっておけ」
リプファーグだ。
無事でよかった。
「すまない。こんな事になるとは」
後悔の滲み出た声だった。