136.
「そこで、ひとつ提案があるのだが」
提案?
こういう状況下での提案は、ありがたい。
「初めレイが言っていた、南へ向かう案があっただろう?」
先を促す。
「どうも先行隊が今向かっている方向は、違うようだ。で、私が思うに、今とっている東の進路は森を抜けたとしても、森周辺には町がなかったように記憶している」
「うん、東って何もないよ。たしか、小さな村がいくつかあった気がするけど、これだけの人数が泊まるための場所はないだろうね。行ったら、野宿になると思う」
クィリムが、追加情報をくれる。
そうなのか、どうやらこの国の東側は村が多いらしい。
「で、南西に向かえば貿易都市に出るし、そうなれば帰城手段も増える。そちらに進路を変えた方が良いと思うのだが」
「それは構わないのだが、南西というのはどちらの方向になるのだ?」
顔しか知らない貴族1号が、ウィルに尋ねている。
「レイ、南西はどっちだ?」
ウィルに聞かれ、改めて周りを見渡す。
ここは暗すぎて、日が差さないので正確には判らない。
思わず、ジェイを見る。
「え?俺?ああ、判った、判った。じゃ、リム頼んだ」
「あ、あれ?俺なんだ」
今度はクィリムが、行ってくれるらしい。
「あ、何も見えないかもだけど、一応周囲も見ておいて」
念のために伝えた私の言葉に、手を振って答えるクィリム。
身軽だな。
クィリムからの報告によると、やはり周囲は木一色らしい。
暫くは、南西に進んでおいたほうが無難だろう。
太陽の向きから方角を割り出し、水分補給をしてから進む事にした。
太陽や北極星から方角を割り出すやり方っていうは、晴れた日にしか出来ない。
天候が崩れたら終わりだ。
今持ってる時計に、方位磁石が付いていたらよかったんだけど。
ナリアッテによると、この国の冬は曇り空が多いそうなので、いつ気まぐれに太陽が隠れるか判らない。
明日も天気だといいのだが。
そうして1時間程、枯れ木をちょくちょく拾いながら歩いた。
途中リプファーグに何故そんなものを拾うのかと聞かれたので、野営時に必ずいるから時間短縮の為にと答えておいた。
クィリムは経験者らしく、既にいくつか集めていたようだ。
ジェイも拾っている。
あれだけあれば、火を起こせるだろう。
もう少し拾っておけば、夜間も安心だ。
暫く進むとある程度開けたいい場所に出たので、そこで今晩の野営準備をする事にした。
こういう野営関係は、貴族は苦手らしく殆ど役に立たなかった。
まぁ、ウィルの片付け下手を見ていたから、ある程度の予測はついていたけど。
それでも、寝床の確保は各自でやってもらう事になった。
騎士団から支給されたものは、調理用具と毛布と水だった。
水は調理用に使ってしまうと、2日持つか持たないかの量だ。
今日はそれほど歩かなかったので、少ししか飲んでいない。
他の4人も同じだそうだ。
だが、気がかりなのはリプファーグ他の貴族だ。
先程、結構飲んでいたのが気になる。
途中に川でも行き当たればいいのだが。
取り敢えず料理を作る。
誰がと言うと、私とジェイとクィリムそれからヴォイドだ。
ウィルには火起こしをしてもらった。
クィリムが一生懸命教えていたが、なかなか火が着かず苦戦しているようだ。
ナイフで火花を起こすやり方だったが、アルミの粉があれば或いは早く着火したかもしれない。
アルミってここにもあるのだろうか。
何とか火が付いたようなのでその火で簡易鍋の水を沸騰させ、そこに固形スープ・乾燥野菜・乾燥肉と、隠し味にイジャーフォ専属シェフ特製調味料を入れて、温かいスープを作った。
10人分が限度なので、同じようにもう一か所で作る。
おーい貴族ども、見てないで頼むから運ぶのだけは手伝ってくれ。
取り敢えず、パンとスープと干し肉、それにドライフルーツと紅茶を夕飯に出した。
量の少ない食事ではあったけど、凄く美味しく出来たように思う。
スープに入れた、イジャーフォ専属シェフ特製調味料が効いているようだ。
ただ、育ち盛りの坊っちゃん達には、この量はきついだろう。
何日保つやら。
いずれ、肉を調達する必要性があるかもしれない。
そうして、食事を終わらせ見張りをする為に3交代制で睡眠をとる事にした。
私の見張りの番は、最後だ。
それまで寝よう。
お休みなさい。