135.
まさかと思うが全部持ってきた、とか?
いやいや、まさか、ねぇ。
「あの、つかぬ事を伺いますが、一覧の物を全て持ってこられました?」
どうか、違うと言ってくれ。
「いや」
よかった、リプファーグの荷物は心配しなくていいらしい。
少なくとも不安材料はこれで一つ消え
「一覧全ての他に必要な物を入れてきたが。って、どうした?腹痛か?」
違うわ!
何故そうなる。
正直、腹より頭のほうが痛いよ。
「一覧を見て、何も疑問を抱かなかったと?」
私が問うと、きょとんとされる。
「何か、問題でもあったのか?」
大有りですよ。
あのティーセットやらなんちゃら全集なる本を持って、行軍するバカどこにいるんだよ。
旅行じゃねぇ。
きちんとしたホテルに泊まる何泊かの旅行なら、どんなに荷物多かろうと個人責任でどうにかしろとか言えるけど、訓練にそんなもの邪魔にしかならないじゃないか。
もう少し考えてパッキングしてほしい。
「ウィル、もしかして後続隊のほとんどが貴族だったりする?」
ウィルに確認を頼んだ。
「そうだな、ほぼ貴族のようだ。先行隊にも何人か貴族はいるようだが、圧倒的に後ろの方が多いだろう」
「まずいな。もしあの一覧を全部持ってきてるとして、このまま進むとなると確実に森を抜けるまでに遭難するんじゃないか?」
ヴォイド、貴方の意見は最もです。
他のメンバーも頷いている。
「なんだ。何か不味いのか?」
「それが不味いかどうかは本人次第なのですが、一覧に書かれた物の中には明らかに不要と思われる物が混じっています」
「何だって?」
これは推測だが、あの一覧の意図は体力的に劣っている貴族の底上げを狙っているのではないかと思う。
実際座学を2日しか受けていないのは、貴族だけだ。
もし、貴族達がもっと平民と接していれば、あるいは余計な物を持って来ずに済んだのかもしれない。
荷物を捨てるにしても、こういう状況下での自己判断は、慎重に行わねばならないだろう。
となると、自然に平民とコンタクトをとらなくてはいけなくなる。
ああ、逆もありえるか。
平民の貴族慣れ。
どちらにせよ、かなりの荒療治だ。
ということを一応話した。
追いついてきた後続組も、この話を聞いていたようだ。
待て、なぜそこで驚くんだ。
まさか、本当に全部持ってきたのではないだろうな。
って、図星か。
「仕方ありません、先行組に休憩するよう言ってきます」
荷物チェックが必要と感じたので、私がそう提案すると、止められた。
「私が行こう」
ウィルだ。
ウィルが前方へ急ぎ足で追いつくと、暫くして先行組が止まった。
だが、また進み始める。
あれ?
ウィルが戻ってきたので事情を聞くと、日が暮れるので出来るだけ進みたいと言ってきたとの事。
後続組を任せるといって、進み始めたそうだ。
休憩ないのか、あっちは。
とりあえずこちらは、荷物のチェックから始めるか。
私が仕切ってしまうと何かと問題が出るから、ウィルに任せた。
いらないものを捨てさせようと思ったらしいが、何人かの貴族たちの抵抗があったようだ。
なので、その人たちにはそのまま荷物を捨てずに持ってきてもらい、いずれピンチになった時に優先的に捨てる事で皆に納得してもらった。
もちろん説明はウィルに任せたが。
意外な事にリプファーグは、荷物を捨てていくようだ。
物にあまり未練がないのかもしれないな。
問題は逆に捨てきれない者たちだ。
このままのペースで歩くとなると、確実にトラブルが起こる。
別に時間制限を設けられているわけではないが、早く森を抜けるに越したことはないだろう。
食糧の問題があるから。
貴族たちが森の植生を知っているとは思えないし、自給するのは難しそうだ。
遅れれば遅れるほど、まずい状況になるのではないだろうか?
「君は森で過ごした事でもあるのか?」
リプファーグに問いかけられる。
「ここではありませんが、経験ならあります。ただ、この森の生態がよく判らないので、素人とあまり変わらないでしょうね。救いは、森での生活をした事がある者がいてくれた事です」
クィリムを指し示す。
目が合うと手を振られた。
振りかえしたら、満面の笑みが帰ってきた。
ジェイもクィリムも素直だな。
もうそんな心残ってないや。
「レイ、荷物の話はこんなものだろう」
説明をし終えたのか、ウィルが話しかけて来た。
「そうだね」
「そこで、ひとつ提案があるのだが」
何か思いついたらしい。