134.
まさか、回転させられるとは思いもよらなかったので、バランスを崩してしまった。
「おっと」
「何をやっているんだ、君は」
後ろに転びそうになったが、リプファーグに腕を捕まれ事なきを得る。
どうも釈然としない。
悪いのは、私か?
気付いてはいたけど、声をかけてきたのはリプファーグだった。
なぜ声をかける。
それから、呼び方が君に変わった。
何故かは謎だ。
「えーと、何でしょう?」
「聞いていなかったのか?ユキナユ様の今の話を」
ユキナユ?
誰だよそれ。
ヴォイドを見ると、首を左右に振る。
ウィルは、どうやら知っているみたいだ。
指し示された方を見ると、訓練中に見たような顔が。
正直名前を覚えていないが。
「対人訓練の時の、2人1組の組み合わせを最小単位とし、必ずその2人で行動をとるという事になった。つまり君とだ」
「ええ!?」
そこは貴族権限で、誰か好きな人と組んでよ。
こんな状況下で、自分を嫌っている人物と一緒に行動を共にするとか、怖すぎる。
「何か問題でもあるのか?」
大ありだろう。
「いいえ。むしろ貴方の方が、嫌なのではないですか?誰か他の者と交代された方が、よろしいのではないでしょうか」
何も私と組まなくても問題ないと思うんだけど。
「私はそうしても構わない。だが、君と組みたがる者は誰も居ないと思うがな」
だから、ペアを組んでやる。
か。
それを、余計なお世話と言うんだ。
「それにユキナユ様のお言葉もある。好き勝手にするのはよくない」
何者だよ、ユキナユ様。
私がきょとんとしていると、盛大に溜息をつかれた。
「まぁ、いい。そういう事だ。そろそろ出発する頃合いだろう。準備を始めたらどうだ」
「いつでも出発できますが」
今度はリプファーグが、きょとんとしていた。
何か変なこと言ったか?
ヴォイドを見ると、肩をすくめている。
「他の荷物はどうした。別の場所に置いているのではないのか?」
「いいえ?」
「どうやって、この森を抜けるつもりなんだ。荷物が少なすぎるだろう」
確かに見た目は少なく見えるが、こう見えて荷物は中にぎっしり入っている。
取り出しやすいようにも工夫してある。
パッキングは得意だ。
「一応、必要な物は入れてあるんですがね」
「そうか、それならいい」
そうして何故か、リプファーグと共に森を抜ける事になった。
ユキナユ様と呼ばれる人物が、どうやら先導しているらしいがどうもこの2列縦隊は南ではなく別の方角を歩いて行っているみたいだ。
所々漏れてくる日の光の方向と時計と使って確認した所、東へと向かっている事が解った。
何か目的あっての行動だと信じたい。
先程ジェイに周囲を見てもらったが、360°木しか見えなかったようだ。
何かかすかに見えるかと思ったのだが、残念。
私が見た地図を信用するならば、この森は真っすぐ歩けてさえいれば必ずどこかの街道に辿り着けるようになっている。
なのでそれほど焦りはしないが、問題はこのペース配分だ。
この3時間ほど、殆どペースが変わっていない。
それはいい。
ただ、先行組は後続の事をほとんど気にしてはいないのだろう。
現にへばって、ペースが落ちてきている者が出始めていても、この早さは変わらなかった。
これではいずれ、分断されてしまう。
「まずいですね」
ヴォイドも気づいたようだ。
「そうだね」
「なにが、まず、不味いというのだ」
リプファーグは、気付いていないようだ。
「いえ、ペースが乱れてきています。このままだと列が前後に分断されてしまうでしょう」
私の話を聞いて始めて後ろを振り返ったようだ。
驚いている。
かなり、離されてきているな。
時々ペースを落とし、先行と後続の中間地点を歩くようにしているが、そろそろこれにも限界が来ている。
どこかで休憩取らないかな。
このままでは先行組も、脱水症状を起こす者が出る可能性があるし。
「何故」
リプファーグが疑問を口にするが、疲れているのか短い。
「考えられるのは、慣れない荷物の重さか、単なる体力不足でしょう」
「皆は、一覧通りに、持ってきて、いるはずだが」
え?
一覧って、え?