133.
置き去られ、残されたのは大量の迷子。
本当に見事な置き去りっぷりだった。
さて、帰るか。
「うわー、これどうやって帰ればいいんだよ」
クィリムが、頭をかかえている。
それを皮切りに、私・ヴォイド・ジェイ・ウィルそれから、クィリムこのいつものメンバーが自然と集まった。
ここまで来るのに、大型馬車で大体4時間かかっている。
馬車の速度を40 km/hと仮定すると、単純計算で城からは160 km離れた場所に現時点いるという事になる。
貿易都市ジュハフィーグから城までは、単騎で2時間の距離だったので、少なくともあそこよりは遠くの距離を移動しているわけだ。
副団長や陛下の部屋にあった地図を何とか思いだす。
地図には城が上部に描かれ、その上部と右部に海が広がっていた。
だが実際は西側と南側が海だ。
ということは、あれは南が上の地図という事になる。
そうすると、ジュハフィーグは西側。
夕日を港から眺めたので、間違いないだろう。
大型馬車で城から町を出るには、北側の門からしか出る事が出来ない。
そこから揺れの具合で大きく左に曲がった個所が1個所。
更に進み大きく右に曲がったのが1個所。
それだけで判断すれば、北に向かっていた事になる。
まぁ、南に向かっていれば間違いないし、森を抜ければ街道ぐらいには出るだろう。
後は、授業でやたら強調していた、森の植生と野営の仕方を頼りにサバイバルだ。
と言う事を、集まった皆に話してみた。
「チズって何?」
「それは、場所を記した図の事だ。俯瞰した状態で描かれた、場所を記した絵と言うと判りやすいか」
ジェイの疑問に、ヴォイドが答える。
「何それ、見た事無い」
ジェイの言葉にクィリムも頷く。
「まぁ、あまり目に触れるものではないな。私も父上の書斎に入らないと見る機会が無い」
ウィルもあまり見た事が無いようだ。
「よく、レイは地図を知っていたな。普通の生活をしていれば、見る事も少ないだろうに」
「あれ?入団試験の面談の時に机の上にあったのを見たよ?」
何故知っていたかの答えにはなってないけど、誤魔化されてくれ。
「ああ、ありましたね。机の上に。レイはよく見ていましたね」
ヴォイドが同意してくれる。
「あの地図、かっこよかったから。目がいっちゃって。個人的にあれ欲しいわ」
凄く芸術的だった。
手書きの地図って、なんだかいい。
ある程度時間が経っているのが好きなんだけど。
「まぁ、ジェイの反応が普通だと思うのだが。異国では地図が普及しているのかもしれんな」
ウィルが言った言葉に、笑ってごまかした。
「じゃあ、向かうは南だな。行こうぜ」
「待て」
ジェイ以外の全員が、待ったをかけた。
いくらなんでも、いきなり出発はないだろう。
「行かないと、日が暮れるし」
まあ、それは気になるが。
「方角も正確に判らないのに、どこへ行こうと言うんだ」
ウィルの正論に、ジェイが押し黙る。
「とまあ、そういうことだ。あ、ジェイは木登りは得意?」
「ああ、結構好き」
と答えた所で、顔が引きつるジェイ。
ふむ、よい勘だ。
「と言う事で、木登り行って見ようか。てっぺん上ったら、太陽の位置とか、回りの景色を良く見て」
「これに登るの?」
全員で頷く。
仕方が無いと言って、登り始めた。
やはり身が軽いな。
ジェイが登り始めると、大量の迷子たちが何だ何だと興味深そうに見上げる。
しばらくすると、降りて来た。
「太陽はあっちに出てた」
指差した方角と現在時刻を見比べる。
現在時刻は1時ごろだ。
「おい」
磁石が無いので、頼りは太陽だ。
雑貨屋に置いてなかったんだよね、方位磁石。
ちょっとずるいけど、時計を使う。
現在の時刻の短針を太陽の方角に合わせ、12時の位置との真ん中が丁度南となる。
「おい、レイとやら」
城は南端にあると思われるので、しばらくは南に向かえばいい。
「聞いているのか」
皆恐らく右利きなので、歩いている内に南西へと向かうことになるだろう。
南西には、ジュハフィーグがある。
上手く辿り着ければ、城まで短時間で帰る手段も見つかるかもしれない。
「レイとやら、こちらを向いたらどうだ」
無理やり肩を掴まれ、回転させられた。
「え?何?」