132.
「ナリメユリさんお久しぶりです」
コリュッリ店内には、イジャーフォ艦長のところの専属シェフがいた。
あの時のジュレが、未だに忘れられない。
本当に美味しかった。
もう一度食べたい。
「レイ、誰?」
ジェイが聞いて来る。
「ああ、先日お世話になったイジャーフォ第1級商船専属料理人のナリメユリさん。ナリメユリさん、こちらから、ウィロアイドとアンヴォイド、ジョアーグそれからクィリムで騎士団の仲間です」
「ああ、宜しくな。まさかこんな所で会うとは思わなかったよ」
「はは、実は演習の為の買い出しなんです。ナリメユリさんがここにいるという事は、艦は王都に停泊中なんですね?」
「ああ。王都に停泊する時は、大体この店まで食料調達に来るんだ。ここは結構面白い品が多いからな」
なるほど、この店は船乗りも買いに来るのか。
と言う事は、保存食や食料なんかは安心して買えそうだ。
本当にいい店を、イグプリームさんに紹介してもらったらしい。
「それにしても、よくこの店を知っていたな?」
「城勤めの料理人のイグプリームさんに、教えていただきまして」
私がそう言うと、驚いた顔をした。
「お?レイはあいつを知っているのか」
ナリメユリさんはどうやら、イグプリームさんと知り合いらしい。
「はい、早朝の走り込みの時に、よくお会いする方なので。それが縁で」
「そうか、だったらあいつに会ったら、今度飲もうと言っておいてくれないか?料理について、相談したいことがあるんだ」
新しいメニューか何かかな?
出来上がったら、是非試食させてほしい。
「分かりました。演習後にお伝えしておきます」
「ありがとう、助かるよ。それはそうと、レイは今晩空いているのか?もし空いてるなら、夜はうちの船で食べないか?」
絶対行く。
邪魔されても行く。
「い」
「是非!」
ジェイとクィリムが、凄い勢いで返事をした。
「え?」
あまりの勢いなので、思わず驚いてしまった。
「バカ、レイ。イジャーフォ貿易商会って言えば、超すっげー有名なんだよ!」
お、おう。
あの艦に乗れる、といってジェイは大喜びだ。
「ああ、恐らく大陸中で知らない者はいないと聞くな。父上が時々世話になっている」
ウィルの家も、どうやら商会を贔屓にしているみたいで、ナリメユリさんの誘いに心なしか、嬉しそうだ。
へぇ、と生返事をしたら、ジェイに鼻息荒くどれだけこの貿易商が凄いのか力説された。
「もう、レイは全然解ってないよ~」
クィリムもジェイに加担する。
そ、そんなに凄いところだったのか。
確かに乗組員の仕事意識は、レベルが高かったように思うが。
「何かえらい誉められようで、照れるな」
それから、気を良くしたナリメユリさんにアドバイスをもらいつつ商品を選んでいった。
嬉しい事に、イグプリームさんの紹介とナリメユリさんの知り合いと言うことで、かなり安くしてもらえた。
お2人に感謝。
後、先程味見した調味料が気になるので、お金ができたら絶対今度買いに来よう。
日本食が恋しいぜ。
昼食後、一旦寄宿舎へ荷物を置きに行き、その後街をジェイとクィリムに観光案内をしてもらった。
ウィルも市井が珍しいのか、私と一緒におのぼりさんを決め込んでいた。
夕方にはイジャーフォ艦長の所へ、お邪魔することに。
街は流石に1日では回りきれないので、今度絶対また来てやると心に誓った。
艦長に挨拶したかったが、どうやら国外への出航手続きをするために、城へ行っているようだ。
残念。
ナリメユリさんの食事は相変わらず最高に美味しく、リクエストしていた例のジュレも出てきて幸せだった。
ヴォイドから、あまりニヤケ顔を周囲にふりまいていたら、女だとばれると窘められたほどだ。
1つ残念なのは、あまりお酒が飲めなかった事だ。
これで思い存分飲めていれば、言うこと無かったんだけどなぁ。
規則め。
ジェイたちは船番で残った船員と思い存分話をして、充実した夕食だったようだ。
久しぶりに楽しい夕食だった。
満足。
で、次の日の朝、つまり数時間前。
いつもの訓練場所に、荷物を持って待機していたら、なんの説明もなく外の見えない大型トラック並みの馬車に乗せられ、話すことも許されず4時間程揺られたところで突如下ろされる。
馬車はそのまま、猛スピードで去って行く。
教官も。
ておい、説明なしかよ。
で、現在に至る、と。