129.
「行軍訓練を2日後に行う」
ユイクル教官がそう言った途端、講義室にどよめきが走る。
「静まれ!明日は各自、行軍訓練のための準備に取り掛かれ。これから渡す一覧には、必要と思われる物がいくつか書かれている」
配られた皮紙には、びっしりと必要品目が書かれていた。
結構あるが、こんなにいるのか?
「あらゆる事を想定し、各自必要だと思われるものを自分で揃え、持って行く事。なお、線が引かれている部分より上の物品に関しては、必ず行軍時に支給される物なので、揃えなくてよい。が、それ以外の物については、各自の判断に委ねる。もちろん、そこに書かれている物以外で、必要とだと判断した物があれば、持って行っても構わない」
なるほど、自由裁量か。
ん?
自分で揃える?
え?
これって不味くない?
金欠病を患っている私への、挑戦とみた。
これは、誰かに借りるかしないな。
てか、誰か貸してくれるんだろうか。
それ以前の問題かもしれん。
「それから、今配布したその一覧は、この部屋以外への持ち出しを禁とする。各自書きとめるなり覚えるかをするように」
騒めきが大きくなる。
「静まれ!行軍においての必要物品については、座学で習ったはずだ。聞いていれば慌てる必要はないと思うがな。では、今から10ウェルで回収を始める」
更に騒めきが大きくなった。
10ウェルは10分だったな。
携帯用インクにペンを付け、持ってきていた皮紙にメモをする。
急いでる時は、慣れた言語で書くに限る。
日本語よりも英語筆記の方が、羽ペンの滑りがいいので英語で書き留めていく。
うーむこの一覧、作為を感じるよ。
中には、必要でなさそうなものまで含まれてる。
傘とかいるのか?
何だよこの何とか全集とかいう本は。
行軍訓練との関係性が全然つかめない。
お茶用道具とか、お前は何しに行くのかと問い質したい。
いかん、突っ込み処が満載過ぎて筆が進まない。
気を取りなおし、大急ぎで書き留め、何とか10分以内で書ききった。
「では用紙の回収を始める。一番後ろの者は、今からその列の分の枚数を数えながら、回収するように。そこ!いつまでも書くな!残りは覚えろ!」
悲鳴があちこちから聞こえる。
書き切れなかったのか。
確かに項目は多かったから、時間足りない人も多かっただろうな。
私は丁度一番後ろに座っていたので、皮紙の回収をしていく。
なるべくゆっくりと回ったつもりなのだが、一覧をもらう際にそこかしこから恨めし気に睨まれた。
いや、私を睨まんでも。
枚数を報告がてら教官に一覧を手渡すと、物凄く上から目線の小馬鹿にした表情をされてしまった。
ふむ、こういう神経質そうな人物が、そんな表情をするとなかなか似合うな。
ではなく、やはり目を付けられていた様だ。
さっさと私の事など忘てしまえばいいのに。
おかしいな?
すぐに忘れられる顔だと自負してたんだけど……
「回収が終わったな。では2日後までに各自必要なものを揃えておくように。なお、明日は外出しても構わない。ただし、夜間に帰宅をする場合、必ず現在の担当教官より事前承認を得る事。必要がある者は、各自騎士棟にある教官の部屋まで行く様に。ただし、許可が得られるのは、各教官が部屋にいる間だけだ。以上、解散」
待て、何日行程なのかとか、そういう説明は一切ないのか。
少し不安。
どころか、かなり不安。
なにか臭う。