128.
あれから2日間、間合いの取り方を徹底的に扱かれた。
というのも、同士討ちを起こす等、ひどい有様だったからだ。
同士討ちがこれほど頻発するには理由があるわけで、それが一体何かと色々考えていく内に、貴族家庭での剣術訓練方法が個人レッスンだと言う事に思い至った。
広い庭で1対1での訓練を10年程続けていれば、体も剣術もそれに慣れてしまう。
だが、いざ多人数での実践をとなると、自分の周りに居る者との動きの連携が、必要になる。
敵だけを見ていては、非常に視野が狭い故に同士討ちも起こりやすい。
かといって、味方の動きに気を取られていれば、その隙を狙われる。
多人数での戦闘では、いかにバランスよく効率的に敵を排除するか、多角的にみる訓練が必要だ。
なるほど、それであの訓練内容だったのか。
現在集団訓練を行っている私の入っているグループは、ほぼ貴族で占めらた24人構成だ。
他のグループは貴族と一般人の混成、一般人のみのグループの構成になっており、このグループが、1番貴族の多いグループとなる。
まぁ、寄宿舎の部屋別でグループ分けをしているので、1階部分が貴族中心に構成されていれば、貴族が多くなるのは当然と言えば当然なのだが。
私はてっきり他のグループも同じ訓練プログラムを使って、訓練をしていたと思っていたけど、どうやら違うらしい。
教官曰く、グループ別にプログラムを変えているとの事だ。
つまり今回やっていた訓練は、連携プレイがダメダメな貴族様のための専用プログラムだったみたいだ。
一般庶民が剣術を習う時は、多人数での訓練が当たり前で、改めて連携を習う必要が無い。
なので、自己流の者とすり合わせを行いつつ、多人数での機能的な動きや戦術を交えながら訓練を行っていたと、教官が言っていた。
で、今日から別訓練と思いきや、なんと座学。
ここで習うのは、主に行軍の基礎。
言うなれば、サバイバルの基礎だ。
講義初日、座学専門の教官の一言が強烈だった。
「これから4日間座学を行うが、お前ら、別に聞いても聞かなくてもどちらでもいいぞ。何なら今から席を立って去ってもらっても構わない。ただし、高いびきで寝たり講義の邪魔をする者がいたら、容赦なく放りだすから。比喩ではなく、そこの窓からな」
思わず窓を見る。
3階だな、うん。
死にはしないが、地味に痛い。
もちろん席を立つ者はおらず、この日の講義は終わった。
だが、1日目2日目の講義内容を聞いて、大した事が無いと思ったのか3日目で来なくなる者が続出した。
主に貴族中心に。
ウィルが言うには、1日目の講義の内容は大体家庭教師で習う事の出来る範囲で、聞く必要を感じなかった貴族達が、3日目には来なくなったのだそうだ。
同じ貴族でも、ウィルは真面目に講義のメモを起こしている。
そういう所を見ると、彼の几帳面さが垣間見えた。
3日目の講義に入ると、動植物に関する内容に切り替わり、教科書が配られた。
前日までに行われた講義は主に、集団での移動方法や野営についてが中心でそこまでは大体ついていけたが、3日目からは、全てが未知の物だった。
教科書に描かれている植物や動物は今まで見た事が無い物だらけで、更に絵は手書きのうえに白黒で、よく似た薬草と毒草の区別がつかない。
しかも致命的な事に、教科書に書かれている字が下手だ。
正直解読が難しい。
薬草の特徴の説明がそこに書かれているのに、読めないというジレンマ。
これ書いたのは誰だ。
これには、周りの隊員も困惑気味だった。
よかった、解読不能なのは私がまだここの字に不慣れなせいかと思った。
教科書の字を読む事はあきらめ、必死に教官の話を聞くしかなかった。
時折教官の話が毒薬の作り方へと脱線して行くが、本当はそちらが専門だったりするのだろうか?
どうにかこうにか毒薬精製講座をではなく、動植物の講義を2日間やり通した。
この2日間頑張った甲斐があり、教科書に描かれている絵の見分け方はマスターした。
いや、絵の見分け方を習っていたわけではないんだけど、段々そっちに楽しみを覚えてしまって集中してしまった。
きっと、実物を見ても大丈夫。
な、はずだ。
何と言っても教科書だから、と自分に暗示をかけてみる。
「以上で座学を終了する。ユイクル教官より話があるので、各自帰らず留まる事」
ユイクル?
どこかで聞いた名だ。
座学の教官と入れ違うように、ユイクル教官がやって来て、講義室の教壇に立って言い放った。
「行軍訓練を2日後に行う」
1対1の剣術訓練の時の教官だった。




