124.
対人訓練2日目の朝。
寄宿舎にある私の部屋を出てすぐの廊下に、何故かリプファーグが立ち塞がっている。
通れない。
これは、挨拶を求められているのだろうか。
朝の基本だしな。
「おはよう?」
「あ、ああ、おはよう。いや、そうではない!」
違うようだ。
「貴様に言っておきたい事がある」
「はい、何でしょうか」
「私は貴様が嫌いだ」
判りやすくてストレートで良いですね。
そういう所は好きだ。
「……はぁ?」
ん?
どうした?
「いや、その貴様の反応はおかしいだろう。と、とにかく。私は貴様の様な奴が嫌いだ。出来もしない癖に入団などと。正気の沙汰ではない。これ以上怪我をしたくなければ去れ。さもなくば、私が貴様をここに居られなくするまでだ」
いや、ドヤ顔されてもだなぁ。
こちらとしても、これからの生活がかかっているので、おいそれと頷くわけにはいかない。
「私もここにいる理由があるので、貴方の意見に従うわけにはいかないのですよ」
と、一応抗議の声をあげておく。
それと同時に、部屋の扉が開いた。
「ルイさ……」
ヴォイドが出てきた。
なんてタイミング。
「ふん。まぁ、いい。いずれ追い出すからな。そのつもりでいろ」
言うや否や、踵を返して去って行ってしまった。
もし私がすでに集合場所に行っていたら、彼はどうするつもりだったのだろうか。
出てくるまで、ずっと廊下で待っているつもりだったのだろうか。
いや、それは流石に無いか。
「ル、いえレイ。今の者に何かされましたか!?」
ヴォイドが焦った様に問う。
「何か良く解らない事を一方的に言うだけ言って、去って行ったよ」
追い出すって言ってたけど、リプファーグはどうやるつもりだろう。
「そうですか。それならばよいのですが」
「それより集合時間もうすぐじゃなかったっけ。そろそろ行かないと」
まだ間に合うはずだけど、急ぐに越した事はないのでいつもの集合場所に早足で向かう事にした。
集合場所に到着後、間もなくして走り込みが始まった。
それが終わるとすぐに対人訓練だ。
教官の話によると対人訓練の間中は、どうやらペアの交代は出来無いらしい。
つまり、リプファーグとひたすら打ち込み合いを続ける事になる。
昨日の二の舞だけにはなりませんように。
リプファーグは目障りな相手としている為か、打ちこみが荒い。
正直訓練になっていない。
乱暴に打ち込むだけの、単純な剣筋だった。
受けるのは容易いが、いかんせん馬鹿力だ。
流石に打ち込まれ続ければ、耐えられなくなるわけで。
ジェイたちからは太極拳を使うなとか言われたけど、バレなきゃいいよね。
という事で逃げに転じる。
「くっ。何故避ける!」
リプファーグから抗議が出たが、理不尽だ。
「いや、普通避けるって」
「このッ」
こういうやり取りを一日中行っていたら、昨日とデジャヴした。
「おい、お前ら!何を遊んでいる!」
教官から叱責を受ける。
遊んでませんよ。
「この者が、剣を交えようとしないのです」
リプファーグが教官に伝える。
間違ってないけど、何だか腑に落ちない。
「レイだったか、真面目にやれ」
「……はい」
理不尽だ。
教官を見ると、ニヤケてるし。
解ってて言っているのがまた。
今度酒奢らすぞ、こら。
って、思い出した。
副団長の吞み会ってまだ有効なんだろうか?
旨い酒が飲みたーい。