123.
「一体あいつは何を言っているんだ?」
教官がぼそりとつぶやく。
更にリプファーグが言葉を続ける。
「このまま、ここに居ても周りに迷惑しかかからないだろう?途中棄権でもして、家に帰るんだな」
「御忠告はありがたいのですが、実は帰る場所もなくてですね、ここで追い出されると非常にまずいわけでして」
いやー全く切実なので、私。
その割には結構余裕ですが、それは全て城という拠点があるからで、実際追い出されたら本当に困る。
この間儲けたお金は薬代で消えたし、残りは昼食べたら終わりだ。
あ、何だか涙が。
「平民風情が、な……」
リプファーグが何かを続けようとした所で、教官が遮る。
「あのなぁ、俺が今何て言ったか、もう忘れたか?今言われた事も実行出来ないようなら、お前らこそ家にでも帰れ」
教官の叱責を受け、押し黙るリプファーグ。
それから、3人組は渋々剣を振り始めた。
ウィルが、クィリムに気を使ってかあの3人組の1人と剣を振っている。
あ、あれは鬱憤晴らしとも言うな。
教官が私とヴォイドを除いた全員の分を一通り見終わると、めいめい散っていた隊員を集めさせ二列横隊で並ばせた。
私は後列の端に並ぶ。
前後間隔を少し広めに開けさせた後、2・3パターンある形を順不同で何度も振る様に教官が指示を出してきた。
今度は何を見る気なんだろう。
まぁ、どんなに頑張っても出来上がりは阿波踊りっぽい何かだけど。
しばらくすると教官から肩をたたかれる人物が幾人か出てきた。
たたかれた者は、振りをやめて後ろに下がるよう指示がある。
ヴォイド・ウィル・ジェイも、どうやら肩をたたかれたらしい。
次私の番となって、教官が盛大に呆れ顔になったのを私は見逃さなかった。
「お前のそれは何だ」
やっぱり聞くよね。
「いや、実はこっちの形に慣れた方がいいのかと、今練習中でして」
私がそういうと、教官に更に呆れられた。
「あの時のあの剣は、すでに完成されていただろう?今更別の物を習う必要性とかあるのか?」
「実はよく解らないのですが、使用禁喰らってしまいまして」
「誰だよ、そんな命令出した奴」
会話を聞いていた、ヴォイドとジェイが一斉に目を逸らす。
何かを察した教官が、あの2人に事情を聴きに行くと、こちらを見てニヤッと笑ってきた。
なんか腹立つ。
ウィルはまたしても蚊帳の外だ。
眉間にしわが寄っている。
「そういう事なら、お前はこっち側だな」
私は肩をたたかれなかった方に移動。
それから、教官の指示により実力のある者とない者とでペアを組まされた。
実力のない者として。
で、実力のある者というのが先程から教官と話し込んでいて、いっこうに戻って来ない。
なぜ、あれと組ませるかな。
これは、あれか?
嫌がらせか?
教官を見ると、目があって又もやニヤリと笑われた。
腹立つ。
一向に戻る気配のないそのペアの相手というのが、リプファーグだった。
延々と教官に抗議をしていたらしいが、結局教官に丸め込…説得され、渋々ペアになる事を承諾したようだ。
それからの訓練は、一方的にリプファーグの連打に耐える事に始終した。
さすがに受けっぱなしは無理なので、所々避けつつも、それをすると怒るし、怒ると煩いしで少しいやかなり辛い。
精神が。
仕方なく受け続けたわけだが、この馬鹿力。
思わず愚痴が出るほど、腕は鉛の様に重くなっていた。
これはジェイといい勝負かもしれないと、時々こちらの様子を見ていたウィルが昼の休憩時間に言っていた。
「おい、大丈夫だったか?」
一日の訓練終了後、心配したジェイが声をかけて来た。
「まぁね。でも、あの連打はさすがにきついわ」
はじめは嫌々やってたみたいだけど、剣術好きなのかただの嗜虐趣味なのか、リプファーグは次第に熱が入ってきて剣筋が鋭くなってきた。
適当に攻撃を受けるのがきつくなっていたので、思わずいつもの受け方をしてしまったのは御愛嬌。
やはり慣れたやり方が一番だ。
まるでサイズの合わない、他人の靴でも履いているみたいな感覚だった。
はー、疲れた。