122.
「ういろうパンツを……売りたい?」
思わず首をかしげる。
ういろうパンツって……何だ?
「あ、いえ、あの、ここに少しいて下さいと、言ったのですが……」
ヴォイドが慌てて近付き、訂正を入れてくる。
ごめん。
言語が違うのを、うっかりすっかり忘れてた。
思い切り日本語で読んでたよ。
そりゃ出鱈目にもなるか。
自動翻訳も、こういう事があるので不便だな。
まぁ、意思の疎通ができるだけでも助かるけど。
「ふむ、まだ多対1の訓練はしないつもりなのだが」
先程からこちらに向かって来ていた新しい指導教官が、ウィルたちを見て言う。
3人組とウィルはもうすでに臨戦態勢になっている。
ジェイやクィリムも付き合うつもりのようだ。
きっかけさえあれば、いつ動き出してもおかしくない。
一触即発ムード。
私は、傍観モード。
ヴォイドはこちらに被害がきそうなら、応戦する構えのようだ。
「若いねぇ」
隣に立った指導教官が、ぽつりと呟く。
いやいや、貴方も十分若いですって。
喧嘩売ってるの?
「で、お前は良いのか?」
何もしようとしていない私を見て、教官が訊ねて来た。
「私が参戦してしまうと、弱いから邪魔になるだけですしねぇ。それに、公平ではないでしょう?」
「まぁ、ある意味そうだな。お前やあの男が入ってしまったら一方的にはなるだろう」
そうそう、人数はこちらの方が多いし、どう考えてもバランスがおかしい。
「一応俺は、前半の実技試験の立会いをやってたからな。あの時の16番と17番のお前らの試合も見てたんだよ。なかなか印象深かったから、よく覚えてる。あの実技試験で、まともに団長と剣を合わせられた奴ってそうはいないぜ?ユイクルの奴が、何故お前の事を使えないとか言っているのか、今一理解ができんのだが。まぁ、そんなことはいいや」
ユイクルって誰。
教官はいきなり息を吸い込む動作をした。
「おい、お前ら!誰が複数でやれと言った!ここにいる全員腕立て100だ!」
うお、耳元ででかい声出さないで。
ハウリングがあ。
やっと教官に気付いた、ウィル達や3人組がぎょっとしている。
って、おい、3人組、何故私を睨む。
私違う、関係ない。
手と頭を駆使して、全力で違うのゼスチャーをしまくるが、どうも通じそうもなかった。
だから、私が呼んだんじゃなくて勝手に来たのよ、向こうから。
私のせいにしないで。
「と、言いたいところだが、そんな事をしたら剣が振れなくなっちまいそうなので、今回は免除。ただし次に何かしでかしたら、罰を受けてもらうからそのつもりでな。じゃあ誰でもいいから1対1で適当に剣振れ。ああ、それからお前とお前は、別に振らなくても構わない」
え、いいってなんで?
教官にヴォイドと私は振らなくていいと言われたが、理由が判らない。
「は?何故ですか?」
思わず私が聞くと、一度試合で見たからとの事。
今は全員の練度を見てるだけなので、どんなものか判っている2人の分は見なくてもいいと判断したとの事だ。
そういうものなのだろうか?
まぁ、あの技は使用禁をくらっているので、阿波踊りを披露しなくて済むのは助かるのだが。
「まぁ、別に振りたきゃいくらでも振ればいいけどよ。お前らを俺が指導する意味ってあんの?おそらく」
「く、くくく。無能はとうとう教官にも、見放されたか。情けない。このまま騎士団にいる理由もないだろう。家に帰ったらどうだ?」
教官が何かを続けようとした時に、リプファーグが言葉を被せて私を罵倒してきた。
いやいや、家ないし私。
それに金も無いし。
騎士団出たら職も無い……。