120.
「しかしレイがバカにされているのは、俺も我慢ならないのですが」
ぼそっと呟くヴォイド。
いや、そういわれても。
クィリムも首振り人形のごとく、縦に首を振っている。
「よ、クィリム」
先程まで練習していたジェイとウィルが、いつの間にかこちらに来ていた。
相変わらずジェイは元気だなぁ。
クィリムに気づいた、ジェイが挨拶する。
「おぅ、ジェイ。ウィルもって何か疲れてねぇ?」
ウィルを見ると確かにどことなく疲れている。
「このバカぢから。お前もっと力配分考えて剣を振れ」
「俺腕力だけは自身あんだよなー。ウィルが体力無さすぎなんだよ。あ、そうそう、2人とももう教官には見てもらったの?」
ジェイが聞いてくる。
そう言えば、教官が見に来るんだっけ。
「いや、まだだよ」
向こう側を見ると、まだ何人か順番待ちをしているようだ。
そろそろあちらに移動しないといけないかもしれないな。
「ここにいるって事は終わったのか?」
ヴォイドがジェイに聞く。
「夢中になってやってたら、教官が少し指導してくれたんだ」
「ああ、的確な指導だったよ。特にレイ、君は剣術が苦手だろう。あの教官に色々指導してもらうといい。なかなか気さくな者のようだ。昨日までの教官とは違うように感じた。あの教官になら丁寧に教えてもらえるだろう」
ウィルが親切に教えてくれる。
ジェイとクィリムが何やら内緒話を始めた。
何か企んでいそうだ。
いつまでも適当に剣振るわけにもいかないしなぁ。
教えてもらえるなら、そのほうがいいのかも知れない。
変な癖がつかなければいいのだが。
「そのことだが、レ」
ヴォイドが何かを言いそうになった時に、慌ててジェイとクィリムが止めに入る。
それから何やら3人で内緒話を始めてしまった。
思わずウィルと顔を見合す。
「何か、感じが悪いな」
ウィルが眉間に皺を寄せる。
時々ちらとこちらを見てくるのが鬱陶しい。
言いたい事があるなら話せって。
「絶対ろくでもない相談だよ。暇だし体動かす?」
私が聞くと、すぐに頷いた。
その事からウィルの剣術好きが窺える。
「ああ、そうだな。前から聞いてみたかったのだが、レイ、君は剣を振るうのは全く初めてなのか?」
「え?いゃ」
「うわー!レイ待って!レイって言うんだよな?とにかく待って!」
ウィルに、そうでもないと答えようとしたら、クィリムにストップをかけられた。
そう言えば、クィリムにはまだ名前を名乗っていなかった。
「何、さっきからこそこそと。後レイで合ってるよ。よろしく、クィリム」
「うん。こっちこそよろしくな。いや、なんというか、レイに対する皆の認識をどうやったら改善できるかと、緊急の密談をしてたんだ。そうしたら、ヴォイドさんから凄くいい案が出てきて、それでいこうと今決まったんだ。だからレイ、さっきの剣術は使用禁止な」
ヴォイドよ、いったい何の提案したんだ。
顔を見ると目を反らされた。
おい。
「別にいいけど……理由を聞いていいか?」
「ごめん今は聞かないでくれ。絶対悪いようにはならないから」
ウィルと顔を見合わせる。
「何か私だけが事情を飲み込めないのだが」
腑に落ちないという顔を隠しもせずウィルが言う。
「いや、ウィルは知らない方がいい。その方が楽しめるから。だから、これ以上は聞かないほうがいいよ」
クィリムがそうウィルに説明すると、ジェイの顔がおもちゃを見つけたような悪い顔をしていた。
絶対遊ぶ気だよあの顔は。
「は!おい見ろよ。平民の下僕の姿が見えないと思ったら、使えない奴と一緒にいるとはな」
「げっ」