119.
振り向いた先には、この間隊服を届けてくれたクィリムがいた。
「やっぱりその独特の動き、実技試験の16番だよね。それから隣が17番」
「そうだけど?」
どうでもいいけど、一人で何してるんだろう。
「うん、実は謝らなきゃならないんだ」
ヴォイドと顔を見合す。
「この間3人に襲われたりしなかった?あれ、俺止められなかったんだ。言い訳にもならないけど、同室の3人が人の話を聞かない奴らでさ、16番の君を呼びだすとか言い出したもんだから、俺がやめた方がいいって言って止めたし、説得したけど聞く耳持たなくて。16番に突っかかって逆に返り討ちにあってるんじゃと思ったら、案の定返り討ちにあって倒れてて……」
あー、それ私じゃない。
ジト目でヴォイドを見ると、目を泳がせて明後日の方を見た。
「うーん、それ隣のヴォイドがやったんだわ」
苦笑しながら答えると、クィリムがヴォイドをまじまじと見始めた。
「え?あれ、そうなの?あれは、えーとヴォイドさん?があの3人を?あいつら何聞いても、答えてくれないし」
「ま、まぁ、今回の件に関してはその、自分にもちょっと非が無くは無いというか」
私がもごもご言うと、クィリムがハッとした顔をしてこちらを見る。
「そうだよ!ここ数日の訓練の時の動きとさっきの動き全然違う!ずっと見てたけど、やっぱり16番じゃなかったのかなとか最近思いはじめた位だし!もしかしてそれってわざと?」
ち、近。
思わずのけ反る。
「あ、いや。あれはあれで本気なんだけど」
「え?そうなのか?あれって何かの儀式なのかと思ったけど…」
何の儀式だ。
黒ミサか?
「ブほっ」
こら、ヴォイド。
笑うな。
ひどいな。
確かに、阿波踊りみたいになってたのは否定しないけどさー、笑わなくてもいいじゃん。
おい、こら、今更無表情になったって遅いって、肩揺れてるって。
「何気に酷い事を言われた気がするが、一応形通りに振ってるつもりなんだって、あんなでも」
「あれで?」
「そ、あれで」
「不味くないか?」
「……ま、不味いかな?」
そう、何と言っても私は、剣を指導していた前の教官の覚えが悪い。
あまりに評価が低くて従騎士になれなくなったらどうしよう、とか思っていたけど、今日から始まった対人訓練で、指導教官が別の人に交代したので期待している。
「だったら、さっきやってた形でやればいいのに。じゃあ、だれも弱いなんて言わないし」
すごくいい考えだろ?と同意を求められたが、そんな事をして新しい指導教官にまで見放されてしまったらと考えるとなかなか出来る物ではない。
「この大勢の中で、1人だけ全く違う事をせよとおっしゃる?クィリムが実は鬼だったと覚えておこう」
「いや、だから、そうじゃなくて。あれ?そうなるのか?ごめん、俺ひどいこと言ってる」
慌てて言い繕うが失敗したらしい。
謝られた。
「はは、ごめんごめん。冗談。私は別に弱いって思われてもかまわないんだ。ただ、問題はここの仮訓練が通過できるかどうかなんだよね」
はー、ここを通過できなけりゃ、ニートに逆戻りだ。
それだけは避けたいなぁ。
「あのさ、俺あの実技試験見た時、頭殴られたみたいな衝撃を受けたんだよね」
あんまりまじめな顔で見てくるものだから、思わず背筋を伸ばす。
「16番目の試合が始まって、見た事も無い様な動きで団長の剣をかわしていって、それに段々引き込まれて。この試合がずっと続けばいいのにとか、もっと見ていたいとか思った位に。目が離せないというか。それでもって、最後には団長蹴るわ、勝つわするだろ?あの時興奮したなぁ」
熱く語られてしまった。
何これ、羞恥プレイ?
穴を数メートル位掘りたい気分だ。
「その後に始まったのが17番目のヴォイドさんだろ?あの試合も凄くてさ。今でも目に焼き付いてるよ、2人の試合。あの衝撃があったからさ、周りの連中が何か言ってるのを聞くのが辛くて。何と言うか、歯がゆい。なんであの試合誰も見てなかったんだよって。あんなに出来るのにーって、でっけー声で言いたい」
いや、言わんでよろしい。
ていうか、言うな。
恥ずかしい。