118.
あれから数日、得に変な呼びだしも無く訓練を送る日々を続けた。
訓練内容は、ひたすら剣術の形の繰り返しだった。
そろそろ隊員達の我慢の限界が来たころ、突然部屋単位で20数人ごとに4つの集団に分けられ、各集団に教官がついての1対1の対人訓練が始まった。
集団分けをされた時に私と一緒の所だと判ると、あからさまに嫌な顔をしてくる者もちらほらいたが、別の所への移動が認められていない為、渋々従っているようだ。
「では、今から対人訓練を行う。二人一組になれ」
教官から指示があったので、自然とヴォイドと私、そしてジェイとウィルがペアを組む。
「練度を見たいので、好きに打ち合っていいぞ」
指導教官の言葉に皆が沸き立った。
ずっと素振りやら体力づくりやらでこの10日程時間を費やしていたので、そうとうこの変化が嬉しいらしい。
「レイ、無理に形通りにしなくてもいいんじゃないでしょうか。いつも非常にやりづらそうにしていますよね」
ヴォイドの言葉に思わず苦笑する。
やはり判りますよね。
確かにやり辛いし。
「一応、訓練内容に沿った動きの方がいいのかなと思って。と言っても、それによって妙な癖がつくのが嫌なので、結局いつも適当に動いているんだけど」
思わず肩をすくめた。
「そうだったんですか。それだと、いつもの訓練内容ではもの足りなかったのではありませんか?」
よくご存知で。
フラストレーション溜まる溜まる。
「今はただ打ち合うだけでいいみたいなので、形とかあまり気にせず好きに打ち込んでみませんか?」
なんて魅力的な誘いなんだ。
もちろん私に否やなどありませんとも。
「いいの?」
「ええ。1試合してみますか?」
周りを見てみると、皆めいめい好き勝手に打ち合いをしている。
ジェイとウィルも楽しそうに打ち合いを始めた。
「そうだね。久々に身体動かすのも悪くないか」
思うがままに動かすのは、酒場以来か。
「では、あちらでやりましょう」
そこそこ広く、それでいてあまり目立たない場所をヴォイドがチョイスしてきた。
あそこならほとんど人の目に付かないだろう。
心おきなく振れるので、ここ数日溜まった鬱憤解消には打って付けの場所だ。
それに何よりも、ヴォイドの剣捌きをまともに見た事が無いので興味がある。
少し楽しみだ。
もちろんヴォイドの動きはいつも良いので、勝負にはならないだろうけど。
位置に付いた所で、お互い剣を構える。
どちらからともなく、動き出す。
私の動きはもちろん、いつもの太極剣だ。
振るのが試験以来なので、ちょっとだけ嬉しい。
ヴォイドが下段から振り上げて来たので、私は少し下がり気味に身体をずらし下から剣を受け流す。
その勢いを利用しヴォイドの背面に滑り込み、上段から切り下ろそうとするが、うまく躱され逆に剣をはね上げられる。
横一線の攻撃を後ろに飛ぶ事で躱すが、その次に来た上段からの攻めには今の崩れた態勢を戻すのに間に合わない。
そのままでは切っ先が身体を掠めるので、素早くしゃがみ込み懐に入れる間合いにまで詰め寄った。
姿勢が低い状態のまま左足を前方に突き出しその勢いを利用して剣を横薙ぎにするが、読まれていた為避けられる。
その隙をつき、ヴォイドが私の左脇腹目掛けて剣を振り下す。
私は横薙ぎをした時の遠心力を利用し右足を軸に身体を回転させつつ、左足でヴォイドの手首を外側から内側下方に向けて蹴る。
私が姿勢を低くしていた為に前傾気味だったヴォイドの身体は、剣の勢いもありそのまま流れ背中ががら空きになった。
回転の勢いを利用しその背中に向けて横一線にしようとしたが、ヴォイドの反応が速く剣を合わせてきた。
すかさず剣を引き避けるが、ヴォイドの剣は既に私の首筋にあてがっていた。
「参りました」
もっと続けていたかったが、仕方がない。
ちょっとだけ悔しいが、まぁこんなものだろう。
「やっぱりあの時の16番と17番だったか」
その声にヴォイドと私は振り向いた。