117.
「おいお前、聞いてるのか」
後を付けられているのはヴォイドも私も判っていたので、後ろから声を掛けられても驚きはしなかった。
「何か用か」
ヴォイドが不機嫌な声で答える。
「あんたじゃない。隣の奴だ」
勇敢にもこの男は、不機嫌状態のヴォイドと対峙をしても何事もなく言ってのけた。
風が吹き荒れているような気がするのは、何も今日が風がきつい日という事だけが理由ではないようだ。
怖いよ、ヴォイド。
「えーと、何かご用でしょうか?」
私が棒読みで答えると、相手が渋面を作った。
様に見えた。
辺りが暗くて見えません。
「付き合え」
ばからしい。
用件も名前も告げない相手の後を、一体誰が付いて行くと思うんだ。
あんたはテレビの有名人か。
「なぁ、ヴォイド。知らない人から、お付き合いして下さいと言われたように聞こえたんだが、付き合うべきなんだろうか?出来ればそういう事は、好みの異性から言われたいのだが…」
「奇遇ですね、俺もです。出来れば、自ら言いたいのですが…」
「え?」
何か続けて言ったような気がしたが、良く聞き取れなかった。
「…いえ。何でもありません。それより、付き合うのなら良く知った相手の方が良いでしょう。少なくとも、こんな暗闇で告白してくる輩とは、付き合うべきではありません。それでは、時間もありませんしそろそろ参りましょうか」
ヴォイド、ノリいいなぁ。
「そうだね。君とは付き合えないよ。ごめん。だけど、人前で告白する君の勇姿は、忘れないよ。それじゃ」
踵を反して帰ろうとしたら、後ろから何か言ってくる。
「な、な、貴様ら、一体何を勘違いして。こら、待て!行くな!レイと呼ばれている奴」
肩を掴まれた。
はぁ。
「まだ、何か?」
「当たり前だ!告白したわけではない。訂正しろ」
あれ?そっち?
「…解りました。えーと、訂正します。名も知らぬ誰かに、付き合えという告白をされたような気がしましたが、どうやら空耳だったようです。何も聞いておりませんので、私共はこれで。それでは」
「え?いや違う。なぜそうなる。わざとか」
わざとです。
はい。
「もう、いいですか?ルイ行きましょう」
ヴォイドが痺れを切らしたようだ。
私の肩を持ち、城の方へと誘導する。
「おい!」
「これ以上付き纏うようなら、実力行使にでますが」
ヴォイド、だから怖いって。
空気が。
「こらこら、子供相手に実力行使とか。後が面倒なので、こういう時にはに…」
「おい!いつまでかかってる」
どうやら仲間が2人、呼びに来たようだ。
あちゃー。
頭を抱えたくなる。
「はは、実力行使だって?こちらは手勢が揃っている。そこの出来損ないと、そんな奴と一緒にいるあんたにいったい何が出来るんだ」
うあー。
なんか痛い発言された。
恥ずかしい。
これ以上聞きたくない。
どうしよう、この三下発言。
身悶えしてしまいそう。
出来そこないは否定しないけど、手勢が揃ってるとか、揃ってるとか、揃ってるとか。
「はー。仕方ないですね」
て、ヴォイドものらなくていいから。
仕方ないとか言って、臨戦体勢なるんじゃない。
「ルイ、手出し無用です」
あ、はい。
「ふん、腰抜け。自分では何もしないつもりか」
こちらを挑発してくる、三下その1。
いや多分、こっちにあんたらが回ってくる事はないと思うよ?
ヴォイドの実力は、この間の酒場で実証済みだから。
気配も消せない人たちが、かなう相手じゃないって。
やめて去る事をお勧めします。
心の中で。
「怖くなって、言葉も出ないか。この役立たず」
はい怖いです、ヴォイドが。
三下その2が、こっちに殴りかかろうとする。
おっと。
こちらに来るかと思われたその2は、ヴォイドが無効化。
その1はすでに動かない。
残りその3も時間の問題のようだ。
「ヴォイド、なんか厄介事に巻き込んだみたいだ。ごめん」
終わったのを見計らって声をかける。
「いえ、これ位なら苦でもありません。ですがこのままだと、また変な連中が来そうですね。暫くはお一人での行動は避けておいたほうがいいでしょう」
きっと、私が弱そうだと思われている事に原因があるのだ。
一番いい事は、喧嘩できますよって言う所をアピールする事なんだけど、それって目立つし何か個人的に嫌だ。
既に悪目立ちしている自覚はあるが…
本当は、周りに空気のように溶け込むのが一番いいんだけどなぁ。
もうこの段階では、無理そうだ。