114.
あれから2時間走り込んだ。
と言っても、ペースはどうやら各自、自由な感じだ。
初日だからかもしれない。
いつもと違うランニングコースだったので、ちょっと楽しかった。
けれど、それを共有してくれそうな奴はいない。
何しろ、他のメンバーより腕立て伏せ分とランニングが追加されているものだから、必死で追い付いている所だ。
そのランニングが終了すると、それから全員で腕立て50。
待て、この違いはなんなんだ。
まぁ、だからと言って100回やれとか言われるよりは、いいけどね。
終わった者から昼食。
はっきり言って、皆何も話せません。
なので黙々と昼を食べてる。
食堂が異様な静けさだった。
ヴォイドはなんだかんだ言って、すぐに回復している。
うん、さすがだ。
昼以降は、また走り込みと腕立て伏せの繰り返しで、終わったころには屍だらけになっていた。
「おい、そこの元気そうな2人、悪いがこいつらを宿舎に連れて行け」
ヴォイドと話をしていたら、ウィオディーク教官に後ろから声をかけられる。
振り向くと、教官の顔が若干引きつっていた。
知り合いですものねぇ。
「了解です」
一応私が答えておいた。
「あ、ああ。宜しく頼み……む」
ヴォイドをちら見すると無表情だったが、肩が小刻みに震えているので色々台無しだ。
ウィオディーク教官が去ると、言われたとおりに死屍累累の片づけを始めた。
肩を貸そうとしたら、平民だの何だのと言われて断られた。
貴族はほぼ全員ダウンしており、比較的無事な貴族が助けに来るとは思えない。
明日の朝まで地面とキスをしていたいなら、私は止めないと言うと、しぶしぶ従ってくれた。
素直でよろしい。
「そういうやつは、本気で意識刈り取った方が手っ取り早い」
そう言って、ヴォイドが殴ろうとしていたので、慌てて止める。
疲れているので、ヴォイドも気が立っているようだ。
そう言えば、ここ数日色々動きまわってくれていたようだし、疲れもピークに来ているのかもしれない。
今日はゆっくり休めるといいのだけど。
「ヴォイドはそこにいる人運んで」
「何かされそうになったら、気絶させて下さい」
いや、もうそんな体力残ってないと思うよ?
皆。
ヴォイドの妙な忠告を聞きながら、盛大に心の中で突っ込みを入れた。
そうして、副団長の言う通りのただひたすら吐くほど走り込みさせられるという、一日目の訓練が終わった。
ああ、風呂に入りたい。
そう思いながら自分の部屋に戻ると、さらなる地獄が待っていた。
ウィルとジェイが遭難していたのだ。
ちょ、部屋で遭難とか。
思わず扉をしめて30秒ほど考え込んでしまった。
くぐもった声で助けを呼ばれたので、仕方なく部屋に入る。
「そのまま総員動くな」
取り敢えず、空いているスペースに荷物を積んでいく。
下手に荷物を抜くとさらなる崩壊がやって来て、こちらが危ない。
ヴォイドが途中で入って来て手伝ってくれた。
ウィルを先に救出し、ジェイを助け出すのを手伝わせた。
その間に荷物をどかす作業を続ける。
2人とも脱出したら、残りの荷物が完全崩壊した。
私達とは逆方向に。
もうなんかすごい状況なんだけど、この部屋。
「1つ聞いていいかな。埋もれた原因って何」
どうやらジェイが、この荷物にキレてウィルと喧嘩を始めたらしい。
「うん喧嘩両成敗だな。そもそもの原因は、この荷物の多さにあるし、そのような状態で喧嘩するジェイの判断も悪い」
私が言うと、ヴォイドも頷く。
「2人でこの荷物片付けろ。それからウィル、ここで過ごすのは1月だけだ」
私がそう言うと、少し傷ついた顔をする。
待て、私はそんなにきつく言って無いぞ。
いじめてるみたいじゃないか。
「この荷物の中でいらないものを選択して、数日中に家に送り返せ。その作業をジェイも手伝う事。そうだな片付けは2ウェジェで出来るか。それ以上長引くと夕飯食いっぱぐれるから気を付けてな。私とヴォイドはその間に風呂と食事と酒を飲みに行く」
とりあえずは風呂からだな。
ナリアッテの所に行こう。
「レイ、こんな事を言うのもなんですが、ここの食堂お酒出しませんよ。基本お酒げ出るのは騎士宿舎に移ってからです」
ノー!!
思わず頭を抱えてしまった。
騎士しか知らない情報をありがとう。
トホホ。