113.
ヴォイドと共に部屋に行くと、ベッド以外は荷物に占拠されていた。
おい。
ウィルお前か。
お前なのか。
「あー!レイにヴォイド!お前ら何してたんだよ!早く行かねーと、遅刻する」
ジェイが奥から顔を出し、慌てて言ってきた。
なんだか、ものすごく久しぶりな感じがする。
「お前ら来るまで、俺ぎりぎり待ってたんだよ。この2日戻ってこないし、荷物多いし」
良い奴である。
荷物が多いのは、私ではない。
服を置いてすぐに出る事にした。
しようとしたのだが、今日着ているのが船員服な事に気付いた。
これはヤバい。
激しく動くと色々ずれる。
着替えなきゃ。
すかさずあの荷物の群の中で、パッキングしておいた自分の荷物がないか目視で探す。
確かあの隅に置いておいたんだけど。
うおー、ウィルめー。
あった、何とか発見。
「ごめん、ジェイ。急いで追い付くから、先に行っててくれ。この服借りもので大きさ合ってないから、急いで着替えてから行く」
「ちょ、そんなのいいだろ。早くいかないと時間本当にまずいぞ」
「いや、レイ。着替えてから行った方がいい。ジョアーグ先に行け」
「ヴォイドもかよ。分かった。俺、知らないからな」
そう言って去って行くジェイを見送る時間も惜しく着替えに入る。
「ま、待って下さいルイ、俺まだ外に出てません」
今止められても困る。
さっさと脱いで、さっと着替えた。
時計を見ると8分切っている。
これは不味いな。
集合場所はこの間の試験会場の隣の広場だったから、この部屋の窓から出れば一番早い。
残念な事に荷物でふさがれている。
ウィル……
この廊下の突き当たりの窓から出れば、この建物の正面玄関から出るよりも早い。
よし、そのルートで行くか。
扉をあけると律儀にヴォイドが待っていた。
「ごめん、待たせて。ヴォイド、あの窓から出て行くから」
「窓?ああ、判りました、行きましょう」
窓を上げて勢い付けて外に出て集合場所までダッシュした。
何とか5分前には到着。
あらゆる意味で奇跡だ。
周りはすでに集まっていて、私達がラストだった。
「よしお前ら、まずは並べ。二列横隊だ」
ウィオディーク教官の指示がある。
適当に後列に並んでおいた。
並ぶスピードはバラバラ。
なので、何度も並び直しをさせられる。
いわゆる通過儀礼と言うやつだ。
で、こういう反抗的なやつが出る。
「教官、こんな事をして何の意味があるのですか」
で、お決まりと言うか大抵罵詈雑言かなんかを言われて、命令が全てと諭され、いやなら脱落と言う事でいいなと言う様な言葉で締められる。
で、そこで周りがニヤニヤしていると、「そこのニヤケ顔のお前、名前はなんだ?」このように教官に聞かれ、目を付けられた挙句に連帯責任で何かやらされると言うのが形式美だ。
「ジョアーグ=ホウイェグです」
オー、ジェイ……。
思わずヴォイドを見ると、あちゃーと言う顔をしていた。
ヘイヘイ、腕立てでもフルマラソンでもどんとこいです。
身体温まってますよー。
こちとら、朝駆けしたばかりなんでね。
「ジョアーグと言ったか。おい、こいつと同部屋の奴は今からその場で腕立て100だ。今日は初日だからおおまけだ。それからお前と同室の奴は、腕立て200だ。その他の奴は俺がいいというまで城の周りを走ってもらう。腕立て組はそれが終わったら走り込みだ。もちろん他の奴らと同じ量をこなしてもらう。いいな!」
「サー、イェッサー、じゃなかった。了解です?あれ?」
思わず返事したが返事の仕方が判らない……
「……了解でいい」
「了解です」
「それは返事しなくていい」
「り、失礼いたしました」
睨まれたので黙る。
くすくす笑い声が起きるが、それも教官の一睨みで皆押し黙る。
「よし、では今より腕立て始め!他の奴は、あれに付いていけ」
あれと呼ばれたのは、どうやらサブ教官らしい。
他のメンバーがニヤニヤしながら通り過ぎて、サブ教官に付いていった。
けっ。
「俺はまだ数を数えていないからな。始めから、数えるぞ1・2」
出た。
カウンターリセット。
「……52・53」
久々に腕立て。
ここ最近は色々さぼってたから、普通に辛い。
ジェイが辛そうな顔をしながら頑張ってる。
ヴォイドは涼しい顔しやがって畜生。
ウィルはちょっとヤバくない?
意地で持ってる感じ。
先程一番初めに教官に盾突いていた人物は、顔が真っ赤でこのまま倒れそう。
と思ったら、ばたんと倒れてしまった。
「ふむ、持ったほうか。よし、全員始めからと言いたいが初日だから、こいつだけ始めから。他の奴は50から始める。次の訓練時からは連帯責任で全員始めからさせるから覚えておけ」
で、何とか無事こちらは100達成。
だー、これからは時々筋トレしておこう。
急にやると、きついわ。
それにしても、ウィルが意外と持った事に驚いた。
ポテンシャルあるのかも。
「よし、終わった奴はそのまま走り込みに行け。10周遅れだ」
絶対ウソだ。
「う」
慌ててジェイの口を押さえる。
何を言うつもりかな?
学習しようね。
「な離せよ!」
「落ち着いて、さらに10周とかは嫌だろ」
私が諭すと、苦い顔をし渋々頷いた。
「何をしている、さっさと行け」
「了解しました」
今度は4人揃って敬礼した。
ウィルは言っているふりだ。
声も出せないらしい。
走れるのか?