110.
ったー。
背中に当たった椅子が痛い。
他の3人が心配するが、大丈夫だと答えておいた。
それよりもウェイトレスさんだ。
「えーと大丈夫ですか?」
彼女の顔をのぞきながら、聞く。
びっくりしたのか、こくこくと頷くだけだった。
盛大に2人ともお酒を被っていたので、服が濡れてひどい事になっている。
顔にもお酒が垂れてきて、目に入りそうだったので指で拭い、そのまま指に付いたお酒を舐めとる。
うん、色んな味がしてちょっと美味しかった。
我ながら行儀が悪いと思うけど、そろそろお酒が飲みたいぞー。
こちらをじっと見つめるウェイトレスさんの濡れた姿が、なんだか色っぽくて目のやり場に困ったので、着替えをするよう促す事にした。
「このままでは身体によくないな。着替えてくるといいよ」
私がそう言うと、振り子のトラみたいに首を縦に振って、走って行ってしまった。
走らなくても。
それにしても、せっかくの新しい服が……
しかもテーブルの上は、大惨事だ。
あの美味しかった料理達の上には、満遍なく木片がまぶされていた。
ンのヤロー……
ふつふつと怒りが湧く。
洋服と酒と食事の恨みは、男と間違われるよりも深い!
ふふふふふ。
どう調理してやろうか?
垂れてきて邪魔になった髪をかき上げ、考える。
「おい、そこの周りが見えていない兄さんがた、ちょーっと面貸してもらおうか?」
そう声をかけながら、原因の2人に近づく。
「何だ、お前?」
「関係ねぇ奴は引っ込んでろ」
うん、兄さん方、見事に形式美を踏襲した返事をありがとう。
「関係無い、ねぇ。本気で言ってんのかなぁ」
私のお酒返せ。
「なんだ?やる気か?」
「そいつ諸共、やっちまおうぜ、ラポイ」
ラポイと呼ばれた男の仲間らしき奴が、追従する。
「いいぜぇ、今最高に頭にきてんだ。殴れる相手が増えるとはな、くく」
ラポイと呼ばれた男が、何ともいえない発言をしてきた。
やばい、キョウキーニ殿下と同じ臭いを感じる。
「だから引っ込んでろと言っただろ、ああなったら奴は止まんねーんだよ。邪魔だ。どけ」
「こちらはこちらの言い分があるんですよ。はいそうですかって引っ込んでなんかいられるか」
ラポイと呼ばれた男とそいつと喧嘩していた奴に、言い放った。
私が言葉を続けようとすると、待ったの声が入る。
「ルイ、ここで争うのはよくない」
ああ、ヴォイド止めないで。
このお腹の辺りのもやもやが、一発殴らないとおさま
「表でやりましょう」
え?あ、やるんだ。
「おい、ヴォイド何を言い出す」
キースが慌ててヴォイドに注意をする。
「キース止めないで下さい。ああいう輩はしつこいですよ。徹底的に殺ってしまったほうがいい」
「同意だ」
ヴォイドに続いてジーマまで、参戦表明する。
「待て、2人ともいや3人とも、落ちつけよ」
キースが慌てて止めようとするが、もう遅い。
私は、やる気です。
「何さっきから、ごちゃごちゃ言ってやがる。途中から首突っ込んできたんだ、覚悟はあるだろ?」
ラポイがそう言うや否や、キースに殴りかかっていった。
「うぉっ。俺は注意をした。そして巻き込まれた。少しお灸をすえる位なら、別に構わんよな。規則第5条の適用という事で」
キースがぶつぶつ言いながら、ラポイに反撃する。
それを皮切りに乱闘が始まった。
ラポイとその仲間が、12人ほど。
対するは、私達とプラスアルファ、人数はこっちが少ないか。
「だから表にと言ってるのに」
ヴォイドが溜息をつきながら、向かってくる相手を一瞬にして倒す。
早いな。
と、よそ見をしていたら、ストレートが来た。
相手の腕の勢いを利用して反撃しようとするが、標的がその前にいなくなった。
ジーマが相手の襟元を掴み投げ飛ばしたようだ。
今度は横合いからきた攻撃を身体を捻って躱し、そのまま相手の足をすくってやろうとするが、キースが頭殴って、その相手を気絶させた。
ラポイがこちらに気付き、にやっと笑う。
「おいおい、口先の威勢だけか?お前誰ひとり相手してねぇじゃねぇか。お・嬢・ちゃん」
良く見てるな。
確かに相手をしようとすると、横取りされる。
あんたの言ってる事は、一言一句間違っていないよ。
最後の発言も間違っていない。
間違ってないはずだ。
何だかむしゃくしゃするので、そこらのテーブルに置いてあった、奇跡的に助かっているお酒を一気に喉に流し込む。
「うあ、これ旨い。なんて言う酒なんだろう」
思わず笑顔。
それがいけなかったのか、ラポイがこちらに向かって突進してきた。
へぇ、相手になってやろうじゃない。
その前に、もう一杯別のお酒を。
と。
「ルイ!」




