107.
結局そのまま泊る事になって、部屋へ案内された。
部屋の広さは、私が城に滞在してた時と同じくらいの大きさで、20畳。
窓から少し海が望める中々いい部屋だ。
もう少しぼうっとしていたいが、ドミトリーが観光案内の続きをしてくれるそうなので、すぐに出る準備をした。
準備って、先程の麻袋を置くだけの事だったけど。
ロビーで待ち合わせしていたので合流すると、先程の雑貨屋さん辺りから案内してくれる事になった。
一歩外に出ると、風に乗って潮の香りがする。
風が少し冷たく感じるので、そろそろ夕方に近いのか。
時計を見ると早いが、なんだか無粋な気がしてやめた。
碧玉を冠するホテルを背にして、先程の大通りに向かう事にした。
歩いていると、小物雑貨や家具などの調度品の販売店が多くみえる区画に来た。
ここは工芸品が売られている一画で、ちら見した感じ中々面白い。
雑貨は、染色小物等の布製品・貴金属等の宝飾品が売られているのが目につく。
染色技術が発展しているのか、なかなか複雑な色をしている布や、柄も凝った意匠の物が何点かあった。
ショウウィンドウの様なものは無いので、実際中に入ってみないとどのような物が売られているのか判らないが、時折扉の中が見えるのでそこから覗いて楽しんでいる。
ふと、目の前の看板を見れば、"オオイアウの酒イウィ"と書いてあるのが目についた。
いや、酒と書いてあるから目についたわけではない。
たまたま、偶然だ。
ドミトリー曰く、そこの看板は薬屋らしい。
「何だか病気になりたくなってくるような名前」
「あれ、まずいぞ」
「そうなの?」
苦そうな顔して頷くドミトリー。
味はなんだか漢方らしい。
漢方は一度中国で病気になった時試したようだ。
因みにあそこの薬は、酔い止めで世話になっているそうだ。
ご愁傷様です。
「旨い酒なら、もう少し海側にある食べ物屋なんかに多い。ユイオルンとかは酒も食い物も旨い」
お?
さっき部屋まで案内してくれたポーターにチップを渡したら、教えてくれたレストラン名と同じだ。
あの時のチップ代は、ドミトリーに借りた。
うぅ、情けない。
「何だか有名みたいだね」
「行ってみるか?」
「うーん」
「お金の事なら、心配いらない。そんなに気になるんなら、今度何かおごってくれればいい」
「解った。そうする」
そういう事で、ユイオルンで食事する事に。
この工芸区画から海方面へわき道を抜けると、丁度夕日に差し掛かっていた海が広がっていた。
遠くでは帆船が所狭しと並んでいて、夕日が反射してとてもダイナミックだ。
なんか叫びたくなるのがわかるな。
こう、ね。
うぉーって。
意味も無く声をあげたいというか、しませんが。
「海、好きなのか?」
「ん?そうだね。あの色とスケールが好きなのかもね。安心するというか懐かしいというか。別に海のある場所で育ったわけでもないのにね」
「そうか。まぁ確かにスケールは異様にでかいな。でもあの波はいただけん」
「あはは」
「ここは冷える、そろそろ行こう」
そうして、ユイオルンで少し早めの食事。
私は、何かの魚の酒蒸しと何かの肉の野菜巻き、後スープとパンを注文。
ドミトリーは、私のメニューに更に何かの肉のなんちゃら焼きを追加で頼んでた。
店内は早い時間にもかかわらず、混んでいた。
船乗りが多いらしい。
回りを観察してたら酒がきた。
て、あれ?
注文したっけ。