102.
最後に出たジュレが、とても美味しかった。
多分鳥か何かのスープで味付けをしていて、口の中で蕩けるとエアエイの味が波のようにやってきて、うまっ!
ここのシェフとは、是非お友達になりたい。
「はは、旨そうに食べるな」
私の食べっぷりを見た艦長に、しみじみと言われる。
「いや、本当に美味しいですよ。これなんか特に。エアエイの芳醇な香りが病みつきになりそうです。ここの料理人、いい仕事してますね」
「ははは、あいつの乗船理由が、"船上の料理のあまりの不味さに絶望したから"だったからな。確かに今の料理人が来なければ、干し肉生活だったのは間違いないよ」
副艦長のイウイェットさんが言う。
相当、味気のない食事事情だったんだな。
「前は、専属がいなくて船員が持ち回りで作ってたから、時にトンでも料理が出てきて死活問題にまで発展した事が」
フィオルさんが、以前の食事事情を思い出してか、げんなりした顔になる。
良く見れば他の2人も似た様な顔をしていた。
そんなにか。
そうこうしている内に皆食べ終わり、和やかに昼食会が終わった。
艦長が、確認の為に今日から明日にかけての行動予定を再度伝えてくれた。
2時間後に次の寄港地に到着し、出発は明日の朝7時頃なのだそうだ。
寄港地には契約しているホテルがあり、そこで泊るか船で泊るか好きにしていいと言われたので了承の返事をする。
艦長たちの前を辞して、さっきの部屋へ戻ろうとすると、ここまで案内してくれた船員が駆け寄って来た。
「あの、レイ殿」
「レイで構いませんよ。何でしょう」
「あ、すみません。まだ俺、名乗って無かったですね。ドフィシヴ=ビジャクルと言います。船室まで良ければ案内しますが」
中々気の利く船員らしい。
「お気遣いありがとう、ドフィシヴ殿。ですが大丈夫です」
それほど複雑な構造もしていないので、先程の部屋までなら迷わない。
なので断った。
「そうですか。あ、俺の事呼び捨てで構いませんから。後、その聞きにくいのですがミルは貴方の事をその……あ、いえなんでもありません」
何かを聞きかけたが、途中でやめたようだ。
彼が何を聞きたいのか判っているが、答えるのが難しいので少しホッとした。
「ミルは、貴方の部屋の向かって左の部屋にいます。一応お教えしておきます」
私がお礼を言うと、彼は笑顔を残して去って行った。
先程甲板でやっていた酒盛りは、どうやら終わったらしい。
少し残念だ。
船員が通常業務に戻り、忙しそうにしていた。
後2時間ほどで陸だからだろう、着船の為の準備に追われているのかもしれない。
しかし、海は相変わらず広がっていて、進行方向にはまだ陸は見えなかった。
はやる心が聞かせるのか海鳥の鳴き声だけが聞こえて、もううすぐだなという気にさせる。
このまま何もない海を見ていても仕方がないので、部屋にもどろう。
部屋の前に辿り着き、中に入ろうとすると隣の部屋からドミトリーが出てきた。
足音で判ったのだろうか。
タイミングがいい。
「あー、少しいいか?」
ドアノブから手を外し、振り向いてから頷いた。
「後少しでこの船は港へ着く。一旦点検作業の為そこで一日停泊する様だ」
「あぁ、それは艦長から伺いました」
そうかと呟いてから、一拍置き口を開くドミトリー。
「そこで提案なんだが、行動を共にしないか?」
「護衛の為ですか?」
先程ゴーストを守れみたいな命令受けてるとか言っていたしね。
「……ああ」
考え込む時の癖なのだろうか、顎をしきりに触っている。
「解りました。ここにいた方がいいのなら、大人しくしておきますが」
私がそう言うと、またもや顎を触る。
ヨモルォスカの時はそうでもなかったので、ドミトリーだと癖が出るのか。
あー、観光したかった。
まぁ、船の上から船員観察でもしますか。
絶対今度来てやる。
「そんな顔されてまで引きこもれとは言わない。それに行ってはいけないとも、俺は言っていない。こう見えてもプロだ。それに、ルイの実力なら、護衛するのにそれほど苦労はしない。だろ?」
ん?
それって。
「まぁ、観光案内ぐらいなら訳ないな」
よっしゃぁ。
酒も食べ物も見送りだが、街並みや建築物や芸術や歴史に触れる事が出来るのは正直うれしい。
思わずにやける。
「あーただ問題があります、ガイドさん」
「ガイド……。何だ?」
「お金がありません」
ドミトリーに盛大に脱力された。
本当の事だし、大事な事だと思う。