第6話 それは嵐前の静けさで
切る、斬る、KILL。
棍棒を持った緑色の小鬼を。
斧を持った牙の鋭い狼を。
炎を身体に纏った猪を。
間合いに入った敵は例外無く切り捨てる。
歩んできた道には多くの魔石が転がり、『ヘンゼルとグレーテル』に出てくるパンくずの道標のようであった。
「……お爺ちゃん、大丈夫でしょうか」
私は頬についた血を服の裾で拭いながら、お爺ちゃんがいるかも分からない道の先を睨む。
道の先に待っているのは終わりが見えない暗闇だけであり、体感で1時間以上歩いているにも関わらず、未だにお爺ちゃんがいた痕跡すら見つけることが出来ていなかった。
「……少し、腕が震えてきましたね。居合の動きは十分確認出来ましたが、如何せんこの身体は体力がない。帰ったら走り込みをしなくては」
実戦の中で改善点を見つけた私は苦笑いを浮かべると、刀を持って震えている腕を殴りつけて力を入れ直し、再び先の見えない道を歩きだす。
そんな平穏な中に生きる未来の自分を掴み取るために。
「まずは、お爺ちゃんを見つけるところからですね」
私は『チンッ』と鯉口を鳴らした。
◆◇
あれから更に約30分。
斬ったモンスターが100を超えた頃、土の壁しか見えなかった視界の中に広い部屋のようなものが広がっているのが見える。
「あれは……ボス部屋、もしくはモンスターハウスのようなものでしょうか?」
警戒しながら私が鯉口を切って部屋の前まで進むと、何やら部屋の中から音が聞こえる。
「ガルァァァァァァァァ!!!!!!」
「はぁ、はぁ……!おい犬っころ、まだまだ儂はくたばっちゃおらんぞ!手下に戦わせて自分は遠くから高みの見物とはいい性根してんのぅ!!」
「!!お爺ちゃん……!!」
聞き覚えのある声に私は急いで部屋の中へ入ると、そこには全身血だらけの状態でモンスターに囲まれているお爺ちゃんの姿があった。
「お爺ちゃん!!」
「有栖!?無事じゃったのか!!」
まだお爺ちゃんが生きていてくれたことに感極まった私が叫ぶと、お爺ちゃんは私の方を振り向いてその顔を喜色に染める。
「ちと待っておれよ!すぐにこいつらを蹴散らしてやるから!!」
そう言うと、お爺ちゃんはその熊のような巨体で斧を振り回し、周りを囲んでいたモンスターを一掃する。
「うらぁぁぁぁ!!!」
身体中を血で濡らしながらも豪快に敵を屠る姿はまるで鬼神。
その姿に思わず私も感心の声が漏れた。
「すごい……!」
力で戦うお爺ちゃんのスタイルは技術で戦う私とは正に正反対。
私には無い戦闘スタイルが確立されており、そこから学ぶことが出来るものも多かった。
「よっこらせっと。よし、これで残りはあの犬っころだけじゃな。有栖はそこで見ておれ。すぐにあいつを倒して、このダンジョンを攻略する」
「わかりました!」
私はお爺ちゃんに返事を返すと、お爺ちゃんの戦いの邪魔にならないように壁際に寄って、お爺ちゃんとモンスターの戦いを観察し始める。
「あの3つの首……もしかしてあのモンスターはケルベロスなのでしょうか?」
その特徴的な姿を見て地獄の番犬を思い浮かべながら見ていると、そのモンスターの尻尾が蛇の姿に変形して、お爺ちゃんの腕に噛みついた。
「お爺ちゃん!?」
私が思わず叫ぶが、冷静であったお爺ちゃんは噛みついてきた蛇を逆に引っ張り込んで、モンスター本体を斧の間合いへと引きずり込む。
「ガルァ!?」
「はははは!!残念じゃったな!!不用意に近付いてきたお主の不覚よ!!」
モンスターは暴れまわって何とかお爺ちゃんの拘束から抜け出そうとするが、それよりも早くお爺ちゃんがその首を叩き潰した。
「ガ……ル……」
そのケルベロスのようなモンスターは最後にお爺ちゃんに噛みつこうとするが、その牙が届く前に力尽き、ボーリングの玉ほどの大きさの魔石へと変わった。
「……ふぅ。有栖、大丈夫じゃったか?」
安心したようにため息をついたお爺ちゃんは、蛇に噛まれた腕を庇いながら私の方へと歩いてくる。
「はい。少し切り傷ができたぐらいです。むしろ、お爺ちゃんの方が大丈夫なんですか?見るからに傷は多いし、蛇にも噛まれていましたが」
どこまでいっても私優先のその態度に、私が呆れた顔をしてそう返すと、お爺ちゃんは誤魔化すようにして噛まれた腕の反対の腕で私の頭をワシワシと撫でる。
「ちょっ、あのっ、やめて下さい……!頭がぐわんぐわんします!」
「はっはっは!まぁ、いいじゃないか!これも生きておれたからこそ出来ることなんじゃぞ?」
「それとこれとは話が違います!」
私が「うがー!」と言わんばかりに腕を振り上げて威嚇すると、お爺ちゃんは微笑ましいものを見るように笑みを深くする。
「いつもの有栖は大人っぽくていいが、今の年相応な有栖も可愛くて良いなぁ!ほれ、さらに撫でる速度を上げてやろう!」
「だーかーらー!やめて下さいって……もう聞こえてませんね。はぁ……」
そんなお爺ちゃんの孫バカな面倒な姿に、私は諦めたように一つため息を吐くと、されるがままに撫でられているのであった。
ドチュン。
「……えっ?」
……バタン。
何者かに、お爺ちゃんの背中をナイフで貫かれるまでは。




