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第5話 ダンジョンの悪意



 時間が経つのは早いもので、私は10歳となった。


 今日は珍しくお爺ちゃんが外に出かけてくるというので、2時間ほど箒で居合の鍛錬をしながら待っていると、お爺ちゃんが握り拳ほどの大きさの紫色の石を持って帰ってきた。

 

「何ですか?それ」


 宝石か何かだろうかと私が首を傾げると、お爺ちゃんは私の視線に気付いたのかその石を私に見せてくれる。


「これか?これはなぁ、魔石と言うんじゃ。各地のダンジョンでモンスターを倒すとゲットできる。得られた魔石は貴重なエネルギー源として、指定の換金所で買い取って貰えるぞ。まぁ、儂は湯を沸かすの丁度いいんで持ち帰ることが多いがな」


 そう説明しながらお爺ちゃんが魔石を水の入ったやかんの中に入れると、一気に水が沸騰してお湯になる。

 どうやら魔石のエネルギーによって水の温度が上がったようだ。


「ふぅ……やはり冬は温かいお茶にかぎるのぅ」


 魔石で沸かしたお湯でお茶をいれたお爺ちゃんは、煎餅を茶菓子にズズッと飲んで一息つく。

 

 良いなぁ。私も貰お。



「ズズズズ……。そういえばお爺ちゃんの『ギフト』って何なのですか?お爺ちゃんってダンジョンに一人で潜って無傷で帰ってこれるぐらい強いんですよね?」


 煎餅を片手にいれてもらったお茶をすすりながらそう問うと、お爺ちゃんは煎餅をかじりながら苦い顔をする。


「バリバリボリボリ……儂の『ギフト』か?残念じゃが儂は『ギフト』を授かっていない。いわゆるハズレというやつじゃ。儂が無傷で帰ってこられてるのはそんなに奥まで潜ってないだけなんじゃよ。失望したか?」


 お爺ちゃんは自嘲するように顔を歪めながらそう問いかけるが、私は首を横に振ってきっぱりとそれを否定した。


「いいえ。私がお爺ちゃんに失望するなんてあるわけないじゃないですか。むしろ、『ギフト』無しで死の危険があるダンジョンに潜っていることに尊敬します。それに、ハズレっていうのは私も同じですしね」


 私が片目を閉じながら笑ってそう言うと、お爺ちゃんは驚いた上で悲しいような嬉しいような複雑な表情をする。


「そう、なのか……。有栖にはハズレなんて言われない人生を送ってあげさせたかったんじゃがなぁ……」


 そう言ってお爺ちゃんは目を伏せ肩を落とすが、私はその肩を上から被せるようにして手を置き、お爺ちゃんと目線を合わして感謝の言葉を語った。


「お爺ちゃん。私はお爺ちゃんに出会えたからこうして生きていられているんです。この私の人生はお爺ちゃんが拾ってくれたものなんですよ?だから、私はお爺ちゃんには心の底から感謝してるんです。他の誰に何を言われたって、私の人生はハズレじゃない。お爺ちゃんもそう思うでしょ?」


 笑いかけながら確かめるようにそう言うと、お爺ちゃんは目から大粒の涙を零しながら大きく頷いた。


「あぁ、そうじゃな……。儂の自慢の子の人生がハズレであるはずがないものな。すまない、儂が間違っていたよ……」


 そうして涙の跡を残しながら雲が晴れたような眩しい笑顔を浮かべたお爺ちゃんは、しばらくの間私の頭を撫でるのであった。



◆◇



 お爺ちゃんと泣きながら会話をしてから数日後。

 私はお爺ちゃんと一緒にダンジョンへとやって来ていた。


 ダンジョンに来た理由は単純で、私がこの身体での居合を試してみたかったから。

 もちろん鍛錬の中で居合はこの身体に最適化させているが、練習と本番では動きが違うのが常だ。

 身体に変な癖がつかない内に実戦は経験しておきたい。


 ちなみに、今日やってきたダンジョンは最近裏山で発見されたダンジョンである。


「有栖、準備はできておるか?」


「はい、大丈夫ですよ。お爺ちゃんに貰った刀もちゃんと此処に」


 お爺ちゃんの言葉に、私は腰元に差した刀を軽く叩いて応える。

 この刀は「儂の目を覚まさせてくれた」という理由でお爺ちゃんが買ってくれたものであり、今世の相棒である。


「よし、それじゃあ中へ入るぞ。この先は命の危険があるからくれぐれも警戒は解かないようにしてくれ。特に、今回はまだ発見されたてのダンジョンで安全かどうかが未知数じゃからな」


「わかりました!」


 私は力強くそう返事をして、いざダンジョンへと踏み入れる。

 万が一にもはぐれないよう、お爺ちゃんのすぐ横を歩くようにして……。



 

 ──カチッ




 無機質な音が耳に届いた。





──────



「へぇ、ここがダンジョンの中ですか。意外と明るいですね。お爺ちゃんはなんでだと思いますか?」


 予想していた薄暗い光景とは逆の光景に、私は隣を歩いていたお爺ちゃんにエアんジョンが明るい理由を問いかけてみる。


 だが、隣からは返事が返ってこない。

 

「……?お爺ちゃん?」


 不思議に思ってお爺ちゃんがいるはずの隣を見てみると、そこにはお爺ちゃんの影一つ無かった。


「……!!」


 お爺ちゃんがこの場にいないことを察した瞬間、私は素早く臨戦体勢をとる。

 もう既に、私がダンジョンの悪意に晒されていることを理解したからだ。


「帰りの道は……やっぱりないですよね」


 少しの期待を持ちつつ後ろを振り返ってみるが、案の定入ってきた入口は跡形もなく消え去っている。

 どうやら、私はダンジョン内のどこかへ転移させられてしまったらしい。

 しかも、私よりダンジョンに詳しいお爺ちゃんとは散り散りにさせる徹底ぶりで。


「これは私も油断してられませんね……。離れ離れになったお爺ちゃんのことも気になりますし、少し手荒にいかせていただきます」


 そう意気込んだ私は腰元の刀に手を添えながら走り出すと、居合の間合いに入る一切合切を斬って道を進み始めるのであった。






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